Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

06« 2017 / 07 »08
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.

地上最後の刑事 / ベン・H・ウィンタース 

同じSF系ミステリでも『パインズ』 が刺激物系な派手目の小説ならば、こちらはぐっと地味目。

一冊かけて時間は一月程度しか進まないし、派手派手しい事件も起こらない。一人の刑事が地道に捜査をする様子を描いているに過ぎない。しかし味わい深く印象に残るのだ。
ただの警察小説と大きく違うのは、そのシチュエーションが特異であることだろう。特異ではあるがしかし現実味もある。最も強欲に地球の恩恵を無駄遣いしているアメリカ人は、実は意識下で最もアポカリプスを恐れている国民なのではないだろうかとも思ってしまう。



impact.pngさて、この物語の世界では、6ヶ月後に地球に小惑星2011GV1、通称マイアが衝突することが確定している。マイアの直径は推定6.5キロメートル。それで地球が砕け散ってしまうことはないにしても、白亜紀に恐竜を滅ぼしてしまった時のようなことは容易に予測できる。
人々は怯え絶望し全世界的に自殺率は跳ね上がった。自殺を選ばない人間は、今の仕事をやめ思い残すことのないよう「人生のやりたことリスト」にチャレンジする人と、日々を変わらず粛々と営んでいく人に分かれる。

主人公のヘンリー・パレスは後者である。彼はほんの数ヶ月前に刑事に昇進したばかりだ。
マイア衝突がわかってからというもの早期退職が続いたので、異例ながら若いパレスが刑事に昇格したのだった。パレスにとって刑事は憧れの仕事だった。

そんな時、ファストフードの店のトイレでピーター・ゼルという男の首吊り遺体が発見される。パレスの住むニューハンプシャー州のコンコードもマイアの件で自殺が増加した。誰もがゼルの死もそんな絶望の結果だろうと考えたが、一人パレスだけが他殺の疑いを持つ。
経理士だったゼルが身につけていたのは全て安物だったが、首吊りに使われていたベルトだけが高級品だったのだ。パレスはそのことに疑いを抱いたのだった。
上司も同僚も、監察医ですら自殺と断定しているにもかからわず、パレスは一人地道な捜査を続ける。自殺でも他殺でも、世界はもうすぐ終わってしまうのだから、どうでもいいじゃないかという視線を浴びながら…




ben winters実は本作は地味ながらも意外な真相を持つフーダニットでもある。でも、そんなミステリの本筋よりも、終始読み手に考えさせる「もし世界が終わろうとしている時、あなただったら何をする?」という強い問いだろう。

あなたがもし、世界があと半年で終わろうとしている状況で、憧れだった職業に就くことができたら?
どうせ世界は終わってしまうのだし…といって別の楽しみを探すのか、それともパレスのように世界がどうであれ自分の目の前のことに集中するのか?
孤軍奮闘するパレス刑事に訳者はノワールの趣を感じると表していたが、私は「仕事というものの喜び」を感じてしまった。パレスは文字通り刑事という仕事が楽しくて仕方なかったのではないだろうかと思うのだ。そこに暗さや闇は感じられなかった。
刑事にはなれたものの、彼はゼルの事件までは、これといった捜査はできなかった。じれったい気持を持て余しており、そこに降ってわいたのがゼルの事件なのだ。
勿論誰しもがそういう生き甲斐的な仕事に就けるわけではないし、どちらかといえば生活のためだけに会社に行っているという人多いかもしれない。それでも、そこにささやかなりともやりがいを見出すこともあるだろう。
仕事であれ、ボランティアであれ、家事であれ、何にしろ自分には役目があるということは、思うに人間に生き甲斐を与えてくれる。こういうのは人間ならではの感覚だ。まぁ、犬も多分に自分の仕事(朝起こすなど)に誇りを持っているフシは身受けられるが…

半年で地球が滅びるという状況であっても、そういう人間の本質というものは変わらないのかもしれないなと思う。
昔はよく「宝くじが10億くらい当たったら絶対毎日遊んで暮らすのだ!」などと夢想したものが、今では、たとえ私に10億の資産ができたとしても、今とそう変わらない生活を送っているのではないかと思う。お手伝いさんだって雇えるだろうがたぶんそうしない。自分で掃除機をかけて洗濯をし、スーパーで買い物をし、ジムに行って本を読んでいるに違いない。
そして、相変わらず株で損したりしてそう…
地球があと半年の命でも、自分の余命があと半年でも、状況が許す限りそうしているだろうと思う。
まぁ、そんなこんなで私はこの小説を、自分らしく生きるとはどういうことなのかを考えさせる小説として読んだわけだった。あなたはどうだろうか?



地上最後の刑事 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ベン H ウィンタース (著), 上野 元美 (翻訳)
早川書房 (2013/12/6)







関連記事

category: SF ファンタジー

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 早川書房 
2014/04/25 Fri. 17:43 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

この記事に対するコメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://spenth.blog111.fc2.com/tb.php/367-ccc16d69
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top

RSSリンクの表示

リンク