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読書日記、ときどき食日記

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ラバーネッカー / ベリンダ・バウアー 


先の翻訳ミステリー大賞コンベンションでいただいた本。
版元の小学館さんが、翻訳家ではない参加者のほぼ全員分用意してくれていたので、クジ運もジャンケンも弱い私でも恩恵に与れたのだった。

さすが小学館!
太っ腹!!


ただし本書の刊行予定は6月で、いただいたのは正規の発行に先駆け制作されたパウンド・プルーフ(仮綴本)なのである。

アマゾンにもまだ装丁の画像がない(笑)→



ベリンダ・バウアーは、日本ではなぜか思ったより話題にならなかったが、『ブラックランズ』でデビューし、CWAゴールドダガーも受賞した実力派作家だ。
パウンド・プルーフを貰えなくても、自分で購入していたと思うが、これは自信をもってオススメできる。
ジョー・ヒルの『NOS4A2-ノスフェラトゥ- 』といい、本書といいなんか小学館は飛ばしてるなぁ!
本書はなんでも二度目のCWAにノミネートされたそうだが、一体全体どうして獲れなかったの?!
『ブラックランズ』もゴールドダガーに相応しい作品だったが、軽くそれを凌駕してると思うんだけど。この先話題作が続々と刊行されるのも分かっているが、これは今年の「トップ5」に入るのじゃないだろうか?
この主人公にこのプロットとか…もう誰にも真似できないと思う。



Brecon Beaconsさて、主人公は南ウェールズのブレコンの町に母親のサラと暮らしている、18歳のパトリック・フォート。
彼はアスペルガー症候群なのである。
子供の頃から何かがおかしかったが、はっきりしたのは学校に通いだしてからだった。パトリックにとって勉強は難しくなかったが、細部や日常の日課に異常な拘りを持ち、人と目を合わすことができず、周囲からは孤立していた。
母親のサラは"普通”であることだけを望んでいたが、彼の"奇抜さ”は、父親が死んでから一層強まった。動物の死骸を家に持ち帰り、解剖の真似事を始めるようになったのだ。その段階が過ぎると機械いじりに熱中するようになったが、突然、大学で解剖学を学びたいと言い出した。
学力には問題ないパトリックは、動物学と生物学は史上最高得点をとったが、医学部に入学を許可されたのは、障害者受け入れ枠のおかげだった。彼がアスペルガー症候群だからだ。

一方、カーディフ大学の脳神経科病棟では一人の患者が"覚醒”しようとしていた。そこは機械に囲まれた昏睡患者ばかりの病棟だ。声をあげようとしてもできない。新生児でもできることが今の自分にはできなかった。そんなもどかしさの中で、その男サムは、隣に寝ている男が殺害されるシーンを目撃してしまうのだった。
晴れて医学生となったパトリックは初めて解剖実習にのぞむ。パトリックの班に与えられた献体は19番だった。献体の個人情報は秘密情報であり、医学生は献体を番号で呼ぶのだ。班の指導役の医師は、医学生の彼らに解剖を通じて19番の死因を突き止めることを課す。がしかし、殆どの部分の解剖を終えても死因は特定できなかった。どの臓器にも筋膜にも、脳にさえ問題は見られなかったのだ。
パトリックはスプーンで脳を搔き出し、その19番を19番たらしてめていたものの手がかりを手と目で追ったが、彼がどうやって消えてしまったのかは結局わからないままだ。だが、諦めるパトリックではない。思い詰めた彼は、解剖学実習室の鍵のかかったキャビネから19番のファイルを盗み見るのに成功する。
だが、そこに書かれていた19番の死因は、到底納得できるものではなかった。なぜなら、彼は19番の全臓器を手にとって確認したのだから…
パトリックは19番の本当の死因を見つけ出すため行動を開始するのだが…



belinda bauer 2…とまあ、あらすじを書いてみると主人公が特異なだけで、あとは平凡なスリラーに映るかもしれないが、全然そうじゃないのだ。
詰まらない言い方だが息をつく暇もなく読ませる。そしてこの手のスリラーには珍しく読後感も良い。

なんといっても登場人物の心理描写がいいのだ。人が物語にスリルを感じるのは、実際どういう状況にあるかではなく、その人物がその時どう感じているのかに共鳴するからではないだろうか。『ブラックランズ』のスティーブンの時も巧いなぁと思ったが、決して平凡な人物ではないパトリックで体験させるというのはすごいと思う。

パトリックは、独自の、しかし彼にとってはごく合理的といえる見地で物事を見ている。だが周囲の人間にはそれが通じない。普通の人間は合理性より感情で動くものなのだ。そして普通の人間なら読み取ったり感じたりすることを、パトリックは解さない。母親のサラに対しても例外ではない。
パトリックにも共鳴させられたが、こういう息子を持つ母親サラの描写は読んでいてこちらも辛くなった。

脳神経病棟のサムも、自分の意思疎通を言うことをきかない肉体に阻まれている。自分と自分以外の世界に壁というか、隔たりがあるのだ。ある意味でサムとパトリック両者の状況は似ている。

ところで、タイトルの『ラバーネッカー 』は、それこそゴムのように首を伸ばし見ようとする野次馬という意味だが、どうしてこんなタイトルをつけたのだろうかとずっと不思議に思っていた。が、その答えは意外にも物語の幕開け部分にあった。
サムが自動車事故を起こすシーンとパトリックが母親の運転で大学の面接に向かう途中でサムの事故現場に出くわすシーンだ。パウンド・プルーフには解説がないので訳者の見解はわからないが、ある種似て非なる状況の二人の人生が交差するこの物語を表して、こんな意味深なタイトルをつけたのかもしれないなと思う。
ただし、パトリックは単なるラバーネッカーに留まることなく、謎そのものに踏み込んでいくことになるのだが。



ブラックランズ (小学館文庫)

ベリンダ・バウアー (著), 杉本 葉子 (翻訳)
小学館 (2010/10/6)








ダークサイド (小学館文庫)

ベリンダ・バウアー (著), 杉本 葉子 (翻訳)
小学館 (2012/7/6)









ハンティング (小学館文庫)

ベリンダ・バウアー (著), 杉本 葉子 (翻訳)
小学館 (2013/9/6)






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category: ノワール・ホラー・サスペンス

thread: 推理小説・ミステリー - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  英国  サイコロジカルスリラー  アスペルガー 
2014/04/30 Wed. 21:49 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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