Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

04« 2017 / 05 »06
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.

血の咆哮 / ウィリアム・K・クルーガー 

全仏オープンテニスと読書会を挟み、引き続きウィリアム・K・クルーガーを読んでいる。
現在刊行されている彼の最新刊が、この『血の咆哮』 だ。
『闇の記憶 』の時も書いたが、クルーガーは2014年のエドガー賞を受賞した。
賞を獲得したのはオコナー・シリーズの作品ではなく、60年代を舞台にした単発作品だそうだが、むしろこの作品が受賞作だったとしても全く不思議ではないと思う。それが証拠に本書の「クルーガーの最高傑作」との呼び声の高いのだ。ただしそれはこの小説が上梓された時点での話である。クルーガーという人は駄作がないばかりではなく、次回作が前回作を上回ることのできる作家なのだから。


bay sunset
さて、我らがコーコラン(コーク)・オコナーは、かつてミネソタ州タマラック郡の保安官だった。保安官を二度にわかり勤めたが、最初は7年続き最終的にリコールされ、二度目は数ヶ月で自ら辞した。今は<サムの店>と呼ばれるハンバーガー・スタンドをやっている。

オコナーには4分の1ほどオジブワの血が入っている。オジブワ族はカナダ国境近くに居住する先住民族だ。
白人とオジブワの間に諍いがおこるたび、オコナーは白人にとっては白人ではく、オジブワ族にとってはオジブワでないことを思い知らされることになった。ただし、保安官の職を辞したのは家族のためで、そのせいではない。
保安官をやめても、幸いなことにオコナーには<サムの店>があった。しかし冬場は商売にならないため、私立探偵のライセンスをとったところだった。

そんな時、オジブワの老まじない師ヘンリー・メルーが心臓の病で倒れる。
知らせを受け病院に駆けつけたオコナーは、メルーから「息子を捜してほしい」と頼まれる。知り合って40年以上になるが、メルーに息子がいるというのは初耳だった。メルーの話によれば、彼は息子とは一度もあったことがなく幻視で見たことがあるだけだという。

手がかりは、73年前のカナダのオンタリオ、マリア・リーマという母親の名前、若き日の彼女の写真が入った金時計だけだった。
Ojibwa.jpgオコナーはネット検索で当てはまる人物を見つける。マリア・リーマはウェリントンという男と結婚し、息子を設けていたのだ。
マリアは亡くなっていたが、その息子ヘンリー・ウェリントンは生きていた。現在72歳だ。年齢的にもメルーの話に合致した。彼は父親から引き継いだ鉱山企業を大きくし、カナダ有数の大企業に育てあげていたのだ。しかし6年前に妻を亡くしてからは、会社を腹違いの弟に任せ、自らは隠遁者となっているらしい。

オコナーは、メルーの幻視をいささかも疑わなかった。この老まじない師とはあまりにも多く説明不能なことを経験してきたからだ。だが、いかにしてメルーの息子は資産家の継息子となったのか。また70年以上も会うことがなかったというのはどういった事情なのだろうか。

オコナー自身も父親として岐路に立たされていた。娘のジェニーと恋人のショーンとの間にトラブルが持ち上がっていたのだ。ジェニーは大学進学を目前にしていたが、作家志望のショーンがジェニーとともにパリに行きたいと言い出し、彼女は揺れていたのだ。
父親から父親への頼みのために、オコナーはウェリントンが隠遁生活を送るカナダのサンダー・ベイに向かうが、けんもほろろに追い返される。

一方、メルーは体調がよくなったといって勝手に退院していた。オコナーはメルーに気のすすまぬ報告をするが、メルーは今度は自分がカナダの息子に会いにいくと言い出す。明朝一緒に出発することにして、オコナーはメルーの家を後にするが、その隙をつきメルーは襲撃を受けてしまう。
誰がどういう目的でこの老人を亡きものにしようとしたのか…





この物語で最も重要な位置を占めるのは、オジブワの老まじない師ヘンリー・メルーの若き日の物語なのだ。
ヘンリー・メルーはオコナーシリーズに欠かせない登場人物だ。彼の存在は、オジブワ族とはどういう民族なのかその精神性を伝えてくれる。これまでは、もの凄く歳をとっているということ以外知らなかったが、まさか90歳だったとは!しかも70歳を過ぎた"息子"がいたとは!

本書は三部構成になっており、第二部はこのメルーの過去の物語にまるまる費やされている。訳者曰く、「これだけで一つの小説として通用するほどの見事な間奏部となっている」というが、本当にその通り。
狂騒の20年代、白人たちは先住民を都合のいい労働力として利用し、金のために自然を破壊した。そんな中、メルーは美しい少女マリアと出会い恋をし、結果として一晩で髪が真っ白になるほどの経験をするのだ。
クルーガーの小説はほのかに森の香りがするが、このメルーの物語は文字通り"土地の感触”を感じることができる。

いわゆる犯人探しというミステリの部分については、クルーガーはワンパターンで、ジェニーの問題の結末も好ましいとはいえないが、そんなことはどうでもよいほどの満足感がある。

人間にとって最も大切なものは何だろうか?言葉にすれば陳腐になってしまうこの問いに、クルーガーは真摯に答えてくれるのだ。
そして、こういう。人間の語彙の中で最大の言葉であるLoveはたった四文字で、その言葉はどんな定義も充分とはいえない」わたしたちは犬を愛し、子供を愛し、チョコレートケーキを愛する。愛にめざめ、愛を捨て、愛のために死に、愛のために殺す。しかし愛を消費することはできないし、飢え死にそうそうでも食べられないし、渇いて死にそうでも飲めはしない。寒さにも暑さにも役にたたないが、でもこの世で何が一番大切かと問われたら、それは愛だと信じている。
どうだろう?このクサさ (笑)でもこんなに凄い物語の最後に言われたら全然クサくはならないのだ。

オコナーの息子スティヴィーとメルーの犬ウォールアイとの関係も、犬好きにはたまらないと思う。



血の咆哮 (講談社文庫)


ウィリアム.K・クルーガー (著), 野口 百合子 (翻訳)
講談社 (2014/4/15)






関連記事

category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

2014/06/13 Fri. 21:12 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

この記事に対するコメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://spenth.blog111.fc2.com/tb.php/379-05ddd7e3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top