Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

03« 2017 / 04 »05
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.

血の裁き / ロバート・ゴダード 

ウィンブルドンの優勝はジョコビッチだった。
昨日のセンターコートの観客もフェデラー寄りだったが、私もフェデラーに優勝して欲しかった!おそらくこれが33歳をむかえるフェデラーにとってGSタイトルが穫れる最後のチャンスだっただろうから。
しかしジョコビッチはいつもいつもアウェイ状態。それはやはり彼がセルビア人だということも少なからず影響しているのかもしれないなぁと思う。ヨーロッパではまだボスニアやコソボ紛争の傷跡が生々しく、セルビア民兵による組織的レイプや残虐な行いも記憶に新しい。(但し、セルビア悪玉論は欧米メディアによるものとする見方もある)
ジョコビッチ個人が何の関係もないのは重々分かってはいるのだが、プレー中の彼の開ききった瞳孔や、不敵な笑み、ラケットのみならずベンチまでも破壊して怒りを吐き出すシーンなどを見るにつけ、どうしても連想してしまう。アンフェアであることは分かっているが、イメージというものは如何ともし難い。同じラケット破壊でも、グルビスがやるのとは違うというか…。

beograd snowさて、本書『血の裁き』はそんなセルビアのベオグラードを舞台にした小説だ。英国人の医者が、昔、セルビアの民兵集団のボスの手術を請け負ったことが元でトラブルに巻き込まれていく物語である。
主人公は、エドワード・ハモンド。肝臓移植が専門の成功した医者だ。妻はなく大学生の娘が一人。毎日プールで泳いでいるため、52歳の男としては平均以上の容姿をしていると自負している。
ある時バカンスの向かうため空港のラウンジで待っていたハモンドの前に、一人の女が現れる。それが全ての始まりだった。
その女イングリッドは13年前、1996年にベオグラードでハモンドが肝移植の手術をした患者、ドラガン・ガジの娘だったのだ。
ガジはユーゴ紛争時、"大セルビア主義”を標榜して社会不安を煽り民族浄化を煽った民兵組織を率いていた悪名高い人物だ。当時ハモンドは妻ケイトとの離婚のために金を必要としていた。そんな時、学会で知り合ったセルビア人の肝臓専門医ミヤノヴィッチから話を持ちかけられる。報酬は法外なものだった。ハモンドの手術により命を取り留めたガジは、その後コソヴォでも大量虐殺を繰り返したが、今は戦争犯罪人として勾留されハーグの国際法廷で審理中だ。
ガジは強奪した金を蓄財しており、かつて自分の元で働いていた"会計係”に預けていた。イングリッドはその金が早急に必要だったが、ここ数日その会計係と連絡がとれなくなっているという。彼女にはその金を我がものにしょうとする政府やギャングの尾行がついているため、代わりにハモンドに接触し自分の口座に送金するよう頼んでほしいという。
ハモンドはそれを拒むが、彼女はある秘密を盾にハモンドを脅迫する。イングリッドがいうには、ガジの手術の謝礼には、ハモンドの妻ケイトの殺害も含まれていたというのだ。自分の頼みをきかないならガジが法廷でその秘密をばらすという。ハモンドにとっては寝耳に水だったが、実際ケイトはガジの手術後に何者かに殺されており、犯人は未だ捕まっていなかった。当時泥沼の離婚協議中だったハモンドの立場を考えると、嫌になるほどもっともに聞こえることだろう。ハモンドの人生は破滅だ。何より娘のアリスが自分をどう思うかを案じたハモンドには、条件を呑むほかなかった。
イングリッドがくれた手がかりを元に、ハモンドは会計係のマルコとの接触に成功するが、マルコは首を縦にふらず行方をくらましてしまう。マルコもまたガジに恨みを抱いていたのだ。
マルコの手がかりを追うハモンドだったが、彼を探していたのはハモンドだけではなかった…。

snow bloodゴダードを初めて読んだのは昨年刊行された『隠し絵の囚人』だったが、それとは随分と赴きが異なる。だがプロットの複雑さや心理描写の巧みさはさすがはゴダードで、一筋縄ではいかない。上下巻だがそれを忘れさせるほどに一気に読ませる。
ただ、今回は郷愁とか赦しといったものとは一線を置き、ひたすら厳しく冷たい現実を突きつけられるような感じだ。巻末の解説によると、ゴダードは本書のために実際ハーグの戦犯の審理法廷に足を運び、その一般傍聴者の少なさに驚いたというが、「人道犯罪をもっと世に知らしめるべきだ」という彼のその思いが伝わってくる。
バルカン半島の悲劇がどのようなものであったのかは、あまり日本人にはなじみがないが、解説でも少し説明が加えられているので、そこを読んでから本書に入るのも良いかもしれない。
「平和?そんなのはまだまだ遠い話だ。停戦してるだけだ。これまでだって完全に終わったことはない。戦いはおれたちの魂に染み付いている。」これはハモンドによる肝移植が終わったときにガジが言った言葉だが、その言葉の通りに一応戦争は終わったが、個人の復讐や戦いは容易なことでは終わらない。そして死体が積上げられる度に、巻き沿い被害(コラテラル・ダメージ)が生じる。そのせいで失われた未来や、引き裂かれた母子…。ハモンドの運命からして、本書はある意味コラテラル・ダメージの物語でもあると思う。
ラストは「ええっ?ここで?」というような終わり方だ。これには賛否あるかもしれないが、私はまだ戦争という傷跡から血が噴き出しているかのような生々しさを感じた。

文句は一点だけ。これ、上下巻に分けずとも一冊でも収まったんじゃないのかなと思うんだけど?(笑)




血の裁き(上) (講談社文庫)
血の裁き(下) (講談社文庫)

ロバート・ゴダード (著), 北田 絵里子 (翻訳)
講談社 (2014/6/13)







関連記事

category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 戦争  セルビア  ゴダード 
2014/07/07 Mon. 22:04 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

この記事に対するコメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://spenth.blog111.fc2.com/tb.php/383-d8323c00
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top