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読書日記、ときどき食日記

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ネルーダ事件 / ロベルト・アンプエロ 

接戦となったW杯決勝はドイツが制した。
アルゼンチンは惜しくも破れてしまったが、なんと暴動が起きたのだとか。ブラジルも然りだが、殊、サッカーに関して南米は異様に熱くなる。
しかし、優勝していたとしても、それはそれで、どさくさにまぎれて暴動やら略奪が起きてそうな気もしなくもない…
南米って、何だってあり?



Neruda.jpg本書はそんな南米はチリを舞台にした小説である。
訳者曰く、”ラテンアメリカ的混沌”である。バブロ・ネルーダという偉大な詩人の生身の人物像に迫った力作とのことで、背景にはチリのクーデターも描かれている。

ところで、チリといえば、記憶に新しいのはロベルト・ボラーニョ『2666』。去年もっとも注目された本の一冊といっていいだろう。
ちなみに、本書のタイトルにもなっているバブロ・ネルーダとロベルト・ボラーニョの二人はアジェンデ大統領を支持していたという共通点もある。

私も「2666」をブームに乗って読んではみたけれど、正直よく分からなかった。そこらのスリラーなどより面白かったのは確かだし、「これは凄いぞ」とも思いはしたが、タイトルの意味ですら未だ分からない始末なのだ。読むポイントでもずれているのかもと、著名な書評家や文学者のトークセッションも聞きにいったりもした。しかし、失礼ながら、文学のプロである彼らさえもわかっていないのじゃないのかという気がしたのだった…。ただ、それこそが”ボラーニョ”なのかもしれない。

それに比べると、本書はもう少し敷居が低いように思う。少なくともボリュームは比べ物にならない。
私はKindle版で読んだのだが、左下にはなんと「本を読み終えるまで1時間34分」と出ていた!Kindleはどういう計算をしているんだか…。紙の本は、ポケミスだが、そこまで薄くはないだろう。



La Sebastiana
さて、さて、主人公は、首都サンティアゴに近い港町バルパライソで私立探偵をしているカジェタノ・ブルレ。
彼はクライアントとのアポイントに向かう途中、空腹だったことを思い出す。多少遅れても問題ないだろうし、カジェタノが素晴らしいコーヒーの香りを漂わせているとなれば、ギリギリまでよそのクライアントに捕まっていたと思ってくれるに違いない。(こういうところが南米的!!!)
かくして、カジェタノはお気に入りのカフェに陣取る。だが、メニューの裏のパブロ・ネルーダの写真をみたと途端に、昔に引き戻され回想にふけるのだった。

ここから、カジェタノの「探偵としての初めての事件」にかかる物語は始まる。
それは今から30年以上も昔のこと。チリはアジェンデ大統領が打ち立てた社会主義政権が崩壊を迎えようとしていた。当時キューバからチリにやってきたばかりのカジェタノは、あるパーティでパブロ・ネルーダと出会う。スペイン語圏で最も偉大な詩人にして、ノーベル賞受賞者であり、アジェンデ大統領の元で駐仏大使を勤めた偉大な男、パブロ・ネルーダその人だ。
ネルーダはカジェタノに「人を探してほしい」と依頼する。それもごく内密に。彼が探しているというのはキューバ人医師だった。専門は腫瘍だ。キューバにいた時から、ずっと会っていないとのことだった。
同じキューバ人のカジェタノであれば、帰郷しても怪しまれることはないし、そもそも彼は失業中の身だ。ネルーダにとって、彼はうってつけの人物だったのだ。

しかし、カジェタノには探偵の経験などなかった。尻込みするカジェタノに、ネルーダは”ジョルジュ・シムノン”を読むようすすめるすなわちメグレ警部から探偵の何かを学ぶべしというわけだ。
戸惑ったものの、ネルーダのような大物の依頼を反故にするなど、彼にはできなかった。そして、"ネルーダのためのメグレ警部"になろうと決心するのだ。
カジェタノはシムノンを読みあさりった。そして"熱意あふれるメグレ警部のやり方を踏襲し”まずはネルーダのことを客観的に知ろうとする。
医師を探すためわざわざメキシコにまで赴くのだから、まずはネルーダその人について徹底的に知ることが肝要だ。実際、彼は謎多き人物だった。

かつてネルーダの伝記を書いた女性作家から、彼はネルーダの多過ぎるほどの過去の女性遍歴を知らされる。ネルーダは世界的に著名な素晴らしい詩人であり、ノーベル賞も受賞しているが、決して聖人君子ではないらしい。
さらには、調査をすすめてまもなく、ネルーダの依頼の裏に意外な動機が隠されていたことが判明する。
手がかりをもとめ、カジェタノの調査の旅は、メキシコ、キューバ、東ドイツ、ボリビアにまで及ぶ。
それはまさしく、ネルーダの女性遍歴と同じ道程を辿るものだったのだ。詩人が詩人であり続けるために捨ててきた女性たちの…である。
そして、南米的混沌の中で調査は行き詰まってしまい、核心に近づけないでいた。
そもそもメグレ警部がその手腕を発揮できるのは、北半球の整然とした世界だからなのだ。南米の甚だしく過剰で奔放な世界を懐柔するのは容易ではないのだ…



Pablo Neruda Museum - 1野口英世のWikiをみても明らかなように、「偉人はイコール聖人君子はない」私たちはそれを分かっているはずだが、つい幻想を求めがちだ。
都合の悪いことには弁解を探し、かくして伝記上では"彼”は"全てにおいて高潔な人物"になってしまう
著者は、それを一旦破壊し、よりリアルな血肉の通ったネルーダを描いている。
その簡潔な記録だけを読んでも、ネルーダはいい人ではない。女性にだらしなく、自己利益のために女を捨てることをいとわない。そして自分の幸福と詩人としての成功が、女の不幸の上に成り立っていることも自覚しているのだ。
捨てられた女たちにとってはネルーダという男はとんでもない奴だが、なぜだかネルーダを憎むことはできない。
確かに明らかな欠点を持ってはいるものの、同時に魅力ある人物であり、偉大なる詩人であることに変わりはないのだ。同じパブロという名のピカソが女たらしだったように。

人というものは往々にして矛盾に満ちている生き物で、単純にこれだと分類できるものではないのかもしれない。
そういう混沌としていて、曖昧で、鷹揚なものが本書には流れている。それこそが南米的なるものなのかもしれない。

この事件を通じて、カジェタノは”南米のメグレ”になるのだ。
理路整然とした北半球の探偵たちとは別の考え方ができる探偵に。

読み終えた時、どことなく哲学的な不思議な気分にさせてくれる本である。


ネルーダ事件 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ロベルト アンプエロ (著), 宮崎 真紀 (翻訳)
早川書房 (2014/05)


Kindle版はこちらネルーダ事件



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category: 歴史・大河・ドラマ

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 早川書房  チリ  詩人  ネルーダ 
2014/07/16 Wed. 16:45 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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