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読書日記、ときどき食日記

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ザ・バット 〜神話の殺人 / ジョー・ネスボ 

joe nesbo翻訳ミステリーシンジケートを通じ、集英社さんから横浜読書会にいただいた本である。
そのうちの一冊をありがた〜く読ませていただきました。

北欧ノルウェーの名手、ジョー・ネスボのデビュー作にしてハリー・ホーレシリーズの第一作目、ガラスの鍵賞受賞作である。
北欧ミステリブームの全盛の頃、どうしてネスボ作品が出ないのかなぁと不思議に思っていたのだが、昨年『ヘッドハンターズ』やら『スノーマン』 やら立て続けに刊行されている。そして今年は本書『ザ・バット 神話の殺人 』だ。

この遅れてきたネスボブームは何?(笑)

物語はノルウェーの刑事ハリー・ホーレがオーストラリアに入国するところから始まる。ハリーがシドニーにやってきたのは、この国で働いていたノルウェー人女性が死体で見つかったため、シドニー警察に捜査協力をするためだ。被害者のインゲルはブロンドの美人で、レイプされた後絞殺されていた。
折しもシドニーは2000年にオリンピックを控えており、北欧諸国からの観光客も増加傾向にある。市にとってはできるかぎり速やかに事件を解決し、安全をアピールしたいという意図があったのだ。ただし、ノルウェー警察サイド、もっといえばハリーにも事情があった。アルコール依存症から回復しつつあったハリーにとっては、このシドニー出張はいわば上司による気遣いでもあったのだ。
ハリーはシドニー警察のアンドリュー・ケジントンとともに捜査に乗り出す。ケジントンはオーストラリア先住民のベテラン刑事だ。署長曰く、先住民がこれほど昇進することは少ないという。
ともあれ、ハリーとアンドリューは、インゲルがエヴァンズ・ホワイトという男と付き合っていたことを突き止める。ホワイトは、麻薬取引などに関わる胡散臭い人物だった。
さらに、過去10年に渡るデータをみると、ブロンドの若い女性がレイプされ絞殺された事件はインゲルのほかに数件見つかる。この犯人は連続殺人鬼なのか…。
調べていくうちに、犯人だと思われる容疑者はめまぐるしく変わり、状況は一転二転。ついには悲劇的な出来事が…。それがもとでハリーは禁を犯してしまうのだが…。

th.jpgええと、贅沢を言わせていただくなら、これ、タイムリーに読みたかったなぁ。なぜならシドニーオリンピックをまた違った視点で見られたはずだから。
解説の杉江氏がいうように、本書は世界に名だたる観光地シドニーを舞台にしていながらも、「観光案内になってはいない」。かわりに先住民と彼らの歴史、神話が語られる。
その中にあって、印象的だったのは"偏見”というものに対する著者の考察である。"偏見”のいかにやっかいなものだろうか。
先住民は白人より下に見られている。署長がアンドリューをして「先住民にしては昇進がはやい」といっているのもその証拠だ。
ハリーは先住民のボクサー、トゥウンバに軽い気持で「どの部族か」と聞いてしまう。が、トゥウンバは白人社会で育っていた。ハリーは失礼なことを言ってしまったと慌てて取り繕うのだが、逆にトゥウンバに戒められる。なぜ、そんなにうろたえるのかと。ハリーは外国人で何も知らないのだから、そのことをトゥウンバが斟酌できるとは考えないのかというのだ。それはつまり暗に馬鹿にしているのと同じだと。
"偏見”を後ろめたく思う気持が、彼らを僅かでも傷つけまいと過剰に意識させ、それが返って彼らを傷つける。逆に、"偏見”を際立たせてしまう。

Sydney 1ミステリにはこの真実が重低音となり流れている。犯人は私はラストに近づくまでわからなかった。でも二度読みすると、ずばりそれが答えになっているところもあって、これはやられたなぁと思ってしまう。
ただ、本書の魅力は犯人探しではなく、ハリーというキャラクターのナイーブさ、弱さにあると思う。彼は、かつてアルコールに溺れたことで、同僚を死なせてしまい、その過去に苛まれている。自分を苦しめているのは、同僚を死なせてしまったという事実だけでなく、その同僚の両親に真実を告げていないからだ。それを抑え込みつつ、一旦は酒を断ったものの、悲しみに押し流され、再び溺れてしまう。「強い男」には実はそれほどの魅力はない。古今東西、人は弱く葛藤を抱えるキャラクターにこそ惹かれるものなのではないか。
北欧ミステリーは概して陰惨で鈍色の空を背景にしているが、本書には逆に強過ぎるほどの太陽が照り付ける。その光の強さがやるせない痛みとなる。
杉江氏は、読み終わった後に空を見上げたという。真似しようにも生憎今日は冷たい秋の雨。私はシドニーの青い空を思う。


ザ・バット 神話の殺人 (集英社文庫)

ジョー ネスボ (著), 戸田 裕之 (翻訳)
集英社 (2014/8/21)





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category: クライム・警察・探偵・リーガル

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tag: 集英社  北欧ミステリ  オーストラリア 
2014/10/21 Tue. 21:35 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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