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読書日記、ときどき食日記

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喝采 / 藤田宜永 

『喝采』ときいてまず思い浮かぶのは「ちあきなおみ」のあの歌である。
1972年の歌だから、さしもの私もまだ物心ついておらず、彼女が 生でテレビで歌っているのも記憶にない。でも知っているしたぶん歌える。数限りなくナツメロで耳にしコロッケの物まねも目にしているからだろう。
     
Youtubeで改めて聞くと、ちあきなおみは本当に歌がうまい。多くの歌手がカバーしているが、彼女の歌の持つドラマ性を超えることはできない。
それもそのはずで、この「喝采」はちあきはこの歌と非常によく似た体験をしているのだという。歌詞と実体験の類似は偶然によるものだったそうだが、歌を聞いていると、そこには確かに何か特別なものがこめられているような気がする。

shinjuku4.jpg本書は、そんな70年代を舞台にしている。
主人公は浜崎順一郎。1971年の秋31歳の時に亡くなった父の跡を継ぎ、私立探偵になった。跡を継いだのは父二対する恩返しの気持からだったが、その実、さして儲かりもしない探偵家業とはいつかオサラバしたいとも考えていた。
その翌年、そんな浜崎のその後の生き方を変えてしまう事件が起こる。
始まりは、女子大生の母親探しだった。その女子大生、中西栄子の母親は、元バンプ女優の神納絵理香だというのだ。絵里香は既に引退しているが、日新映画のかつての看板女優でベッドシーンを含むお色気が売りだった。18歳で栄子を産んだが男と逃げだのだという。
わずかな手掛かりから、浜崎は絵里香の居場所を突き止める。絵里香は娘と会うことを了承してくれるが、その矢先自宅で何者かに殺されてしまう。死因は毒殺だと思われた。テーブルにはダリアの花が飾られ、三和土にはなぜか藁くずが堕ちていた。
第一発見者の浜崎は警察に疑いをかけられしぶしぶ依頼人の名を明かすが、中西栄子は「そんな女優は知らないし、自分の母親は甲府にいる」というのだった。
中西栄子を騙る何者かが、浜崎に絵里香探しを依頼したのだ。だとしたらなぜだ?奇妙な話だった。
本物の中西栄子は浜崎の名を知っていた。以前、デパートで彼女が掏摸の被害にあった際に浜崎が居合せ、名刺を渡したのだという。
浜崎は知り合いの芸能記者の助けを借り、事件の調査を始めるが、その過程で知りあったかつての絵里香のライバル女優だった福森里美に次第に惹かれていく。そして絵里香の事件は、浜崎の父親が密かに調べてた同信銀行の現金輸送車襲撃事件と繋がりを見せるのだった…。
yoshinagaFujita.jpg
直木賞作家、藤田宜永氏のハードボイルド小説だ。
藤田宜永も好きな作家の一人。なにせ多作なので全部は読んでないが、デビュー作の『野望のラビリンス』 も好きだったし、『求愛』『愛の領分』 のような恋愛小説の名手としてのイメージも強い。
エールフランスに勤務していたという経歴は関係ないだろうが、作品もまたどこか垢抜けた洒落た雰囲気を持っている。本書でも、懐かしの「昭和」を舞台にしていながらも演歌臭は全くしない。そうなのだ。ハードボイルドに演歌は似合わない。

そしてハードボイルドに不可欠なのは陰のある女だ。本書でもそれは存分に味わえる。そういう年上の女に惹かれる主人公にこちらもほろ苦い気持ちにさせられる。
里美は掴みどころのない女で、
私のような80年代の狂騒の最中に青春を過ごした人間は、70年代にはまだ確かにあった(はずだと信じたい)純粋なものに憧れを持っているのかもしれない。人は自分で物事の判断ができるようになるずっと前に、時代や環境が作り出したものに浸食されているものだからだ。静かでしっとりとしていて、どこか清らかなものを憧憬する。
また、ハードボイルドで難しいのはキーとなる女をどのように描くかである。聖女である必要はないが、悪女すぎてもいただけない。主人公になりきった読者も知らず惹かれてしまうような女でなければならない。里美というキャラは、さすが小池真理子と結婚しているだけのことはあるなぁと思ってしまった。

バイヤリースオレンジ、ボンカレー、パンタロン、缶ピース、時代を象徴する懐かしのアイテムを目にするのも楽しかった。今はオレンジジュースといえば100%のものをさすが、そういえば昔はバイヤリースだったっけ。
歌手自身の実話に近い歌詞であるという「喝采」をタイトルにもってくるのはずるいとしか言いようがない。
あの歌にこの物語はとても嵌るのだから。
ただ、やはり世代差なのだろうか。犯人の動機だけは今ひとつ自分にはしっくりとこなかった。

喝采 (ハヤカワ・ミステリワールド)

藤田 宜永 (著)
早川書房 (2014/7/26)


Kindle版はこちら→ 喝采




女系の総督

藤田 宜永 (著)
講談社 (2014/5/22)






  

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category: ミステリ/エンタメ(国内)

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tag: 早川書房  ハードボイルド  70年代 
2014/12/12 Fri. 22:43 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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