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読書日記、ときどき食日記

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ありふれた祈り / ウィリアム・K・クルーガー 

新年一発目の横浜読書会スピンオフは、毎年エドガー賞受賞作と決まっている(らしい)

なので、今年はウィリアム・K・クルーガー『ありふれた祈り』である。
そろそろ読まなきゃ週末に間に合わないので、急ぎ読んだ。

クルーガーに関しては、コーク・オコナーという保安官を主人公にしたシリーズを少し読んでいたので、どういう作家なのかわかっていたつもりだった。もうね、『血の咆哮』 なんかは、2007年にエドガーを穫っていたとしてもおかしくないのでないかと思っていた。
でも、正直、本作には驚いた。
   William Kent Krueger 050214
www.shelf-awareness.comより</span>

エドガーだけでなく、バリー賞、マカヴィティ賞、アンソニー賞と
4冠に輝いている

が、それも当然だろうと思った。だって、すごくいいんだもの。
私は普段本を読み捨てていくタイプで、よほどのことがない限り読み返したりはしないのだが、一読後すぐに読み直した。
全てがわかっていても、その素晴らしさは少しも薄れることがない。

trestle bridgeさて、舞台は、アメリカ中西部カナダと国境を接するミネソタ州の田舎町ニューブレーメン。(ニューブレーメンという町は著者の創作らしい)
もはや、クルーガーファンにはお馴染みの雄大な自然が目に浮かぶ光景だろう。本書でもその自然の描写は存分に味わうことができる。
が、オコナーシリーズとはまた赴きが異なる。あのシリーズほどには男性的でなく、もっと繊細な印象だ。

物語は、主人公のフランクが今から40年前の1961年の夏に起こった一連の出来事を回想する形で語られていく。フランクは当時13歳で、いつも一緒にいる2歳年下の弟ジェイクはひどい吃音症に悩まされていた。ジェイクは吃音症というハンディのためか観察することに長けており、誰よりも正確に物事の本質を見抜ける賢い少年だった。
フランクたちの父のネイサンは牧師で、華やかな美人の母ルースはその音楽の才をいかし聖歌隊をまとめていた。兄弟には優しく美しい姉アリエルがいて、二人とももアリエルが大好きだった。彼女はその年の秋からジュリアード音楽院に入学する予定だった。アリエルには音楽の才能があり、母自身の潰えた夢を達成する希望だったのだ。
アリエルは、母親の友人で音楽家のエミール・ブラントの元でピアノや作曲を学んでいた。彼女にはカール・ブラントというボーイフレンドがいたが、エミールは彼の伯父だった。
エミールは地元の名家ブラント家の長男でフランクたちの母親の元婚約者だった。彼は音楽家としての出世のため、母親を捨てハリウッドへいくのだが、戦争によって深く傷つけられ地元に戻ってきた。美しかった顔に大怪我を負っただけでなく、視力を失ったのだ。そのため一族から離れ、生まれつき耳が不自由な妹リーゼとともに半ば隠遁生活を送っていた。鷹揚なところのある母親は捨てられたという過去を忘れ、今では良き友人としてエミールとの付き合いを続けている。
エミールの妹リーゼは、聾であることの他に今でいう自閉症の一種だったのだろう。すぐに癇癪を起こし、エミール以外の人間とコミニュケーションをとることができなかったが、ジェイクだけは別だった。吃音症のジェイクと耳の不自由なリーゼはどこか通じるものがあったのだろう。
その年の夏は、死が様々な形で多く訪れることになった。まずフランクと同じ年のボビー少年が構脚橋の線路で死んだ。続いて浮浪者の死体が見つかった。さらに、行く手には三つの死が待ち構えていたのだ。
三つ目の死は、文字通りフランクたちを打ちのめす。それはとても大切な人の死で、明らかに殺人がもたらした死だったからだ。フランクたちは深い哀しみと喪失感を味わい、やり場のない怒りを神に向ける。
なぜ、神はあんな惨いことをするのか…?犯人は一体誰なのか…?


犯人については、かなり明確なヒントが示されているので、勘のよい人はピンとくるだろう。もちろん、ミステリとしての出来にも異存はないが、本書の良さはそんなものとは別次元のところにこそある。

daisy.jpg特に大切な人を亡くした経験を持つ人々にとっては、胸に沁み入ってくるように感じるのではないか。
私自身も5年前に愛犬を亡くており、その時のことを思い出させた。たかが犬だろうと思われるだろうが、16年間共に暮らしたまぎれもない家族だったので、その喪失感は想像以上に大きかった。私もジェイク同様、当時は何かが間違っていると、何者でもない何かに向けて腹を立てたものだった。
私は相も変わらず、特にカソリック的な神の存在は全く信じていないが、硬化した心が穏やかに融解していくような暖かさに満たされた。

田舎の濃い人間関係の上に成り立つドラマが得意なクルーガーだが、その自然描写の美しさも特筆すべきだろう。ミネソタ・リバーの様相や、その恩恵を受けた肥沃が育むトウモロコシやライ麦が風を受けて緑の波のようにさざめき、繁殖力旺盛な鳥たちがタンポポの綿毛のように一斉に羽ばたく様子などなど…。一瞬でその世界に入り込める。
そして、こうした自然の美しさは情景描写だけに留まらない。例えば「裏の牧草地に生える野生のヒナギクのような飾らないやり方で」など比喩にも生かされており、視覚にも相乗的な効果をもたらす。
こういうさりげなさも独特でいいなぁと思う。

私はこの本、もしかして今年度の一番かも!と思ったのだが、さてさて週末の読書会ではどうでしょう?
登場人物や設定は異なるが、著者は本作の姉妹編に取り組んでいるというから、こちらも待ち遠しい。



ありふれた祈り (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)


ウィリアム ケント クルーガー (著),宇佐川 晶子 (翻訳)
早川書房 (2014/12/10)







血の咆哮 (講談社文庫)


ウィリアム.K・クルーガー (著), 野口 百合子 (翻訳)
講談社 (2014/4/15)








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category: 歴史・大河・ドラマ

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  早川書房  読書会  エドガー賞 
2015/01/07 Wed. 20:41 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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