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読書日記、ときどき食日記

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完璧な夏の日 / ラヴィ・ティドハー 

暖かい日があったかと思えば、またぶり返しで寒い。
こういう寒暖差は身体にこたえる。肩と腰にテキメンにくるのだ。肩なんかサロンパスのせいでかぶれちゃってますよ。ハの字のカタチに…。
そうなのだ。なんだが最近絶不調…
暑いのにも弱いので、夏は夏で問題なのだが、こんな私でも、こんなときは夏に焦がれたりする。
ただ、これから紹介する『完璧な夏の日』は私が焦がれるものとは、ちょっと違っているのだが。いや、同じかもしれないな…。

さて本書、『完璧な夏の日』はイスラエル人作家によるもので、なんでも2013年度の英ガーディアン紙ベストSFに選出された作品なのだとか。
装丁も装丁だし、最初「まるでXメンやんけ!」
と思ったのだが、豈図らんや。
経歴をみると著者自身がコミック畑の人であるし、SFとコミックはもとより親和性がある。コミック的であることは否定はしないが、そう馬鹿にしたものではない。
ユダヤ人が書いた作品であることを意識せざるを得ないストーリーで、これが割と読ませるのだ。

pub.jpg物語は、ロンドンのパブに一人の男が入っていくところから始まる。
剥がれかけた壁紙に50年代のシャンデリア。足を踏み入れれば、一瞬1950年代に引き戻されたような錯覚に陥るだろう。男の名は、オブリヴィオン、忘却という意味の特別誂えの名だ。サヴィル・ロウで仕立てたスーツに身を包んだ彼は、その店で目当ての男フォッグを見つける。実に40〜50年ぶりの再開だった。
彼らは二人ともある日突然特別な能力を授かった超人、ユーバーメンシュだった。ここにいる二人のみならず、あの日のあの出来事によって世界中で誕生した。フォッグはその名の通り霧を操れる。そしてオブリヴィオンの能力は…彼の名の由来はいずれわかるだろう。
彼らは超人へと変化してしまった日から歳をとらなくなった。だからあの戦争以降の全てを見てきた。ベトナム、アフガニスタン、そして911…
40年代、彼らは英国の諜報機関に属していた。二人は共に戦火をくぐり抜けた相棒だったが、第二次大戦後にフォッグは組織を離れる。
この日のオブリヴィオンの仕事は、フォッグを彼の元上司オールドマンのもとに連れていくことだった。オールドマンもまたユーバーメンシュで、その名の通り昔も今も変わらぬ老人だ。ユーバーメンシュからなる英国の諜報機関を率いている。そのオールドマンが、ある古いファイルについてフォッグに聞きたいことがあるという。
そのファイルとはおそらく"完璧な夏の日"すなわちゾマータークと呼ばれた少女にまつわるものだろう。
かくして、フォッグは過去の回想をはじめる…。
ヒーローを夢見た少年時代、オールドマンの組織にスカウトされ仲間とともに過ごした養成所時代、ナチ軍のユーバーメンシュとの闘いの日々、そして、ゾマータークとの出会い…。
物語はオールドマンの執務室での現在と、過去をいきつもどりつしつつ進んでいく。そして、フォッグが長い間秘密にしていたことが明らかになるのだが…

Lavie-Tidhar.jpg
フィクションには違いないが、歴史的事実にほぼそのままに、その時代にユーバーメンシュがいたらという設定の物語である。なので、ナチのメンゲル博士やパリのゲシュタポの指揮官だったクルト・シュリカ、終戦後秘密裏にアメリカに渡り、アポロ宇宙船の打ち上げに重要な役割を担ったヴェルンヘア・フォン・ブラウン博士などもそのまま実名で登場している。
物語の核になっているのはいうまでもなく、第二次世界大戦なのだが、戦争の本質もずばり描かれている。
例えば、当時フォッグはベルリンの下宿屋の老婆を詰問し、彼女の身分証明を手にしたとき万能感に陶酔する。その身分証明は彼女の全ていうなれば魂であり、そのときフォッグは他人の生殺与奪権をその手に握っているのだ。そして、それに恍惚となるのだが同時に思うのだ。大量虐殺や強制収容所などのナチの所行やあの戦争の根幹にあるものはこういうものなのだと悟るのだ。
また、戦争にあたってはユーバーメンシュを擁していれば、確かに有利は有利だが、相手もユーバーメンシュを擁しているなら、その作用はゼロになる。これはそのまま核の脅威にも当て嵌る。

肝心のフォッグとゾマーダークとの恋物語の部分は、私にはいまひとつピンとこなかった。確かにゾダーマークは美しい少女だったので一目惚れもあるのだろうが、それよりもオブリヴィオンがフォッグに寄せる複雑な思いのほうが胸に迫ったかな。オブリヴィオンは長身の美形なので、これはまた腐女子の皆さん好みな感じもしなくもない…。

作中でも引用されている有名な「シュレーディンガーの猫」の実験は、ラジウムと毒ガスを発生装置、ガイガーカウンターとともに箱に猫を入れておいて、一定時間経過後、猫は生きているか死んでいるかという実験だ。そして、量子力学が引き起こすパラドックスを含んでいる。この実験が示すのは、「観測結果に観測者の積極的な役割を取り入れるべきだ」というものだそうなのだが、これがまさに本書の構成と重なっている。
というのも、随所に、フォッグでもオブリヴィオンでもない、「われわれ」という視点が出てくるからである。
この「われわれ」が誰を指しているのかは解説に詳しいが、それをまたずとも、読者にはわかるのではないかと思う。

解説者の方も言われていたように、「X-メン」しかり、「ウォッチメン」しかり、この手のものは、アメリカこそ世界だといわんばかりのものだが、本書は欧州が舞台であり、あくまで欧州とりわけ英国サイドから描かれているのも面白いと思う。
アメリカのユーバーメンシュ部隊の派手なパフォーマンスを目の当たりにして、フォッグに「アメリカ人どもめ、全てを見世物にしなければ気が済まないのか」と言わせてもいるのだが、割と皮肉もたっぷり。こういうところもガーディアン紙は評価したのかもしれないと思う。





完璧な夏の日〈上〉 (創元SF文庫)
完璧な夏の日〈下〉 (創元SF文庫)
ラヴィ・ティドハー (著), 茂木 健 (翻訳)
東京創元社 (2015/2/21)

Kindle はこちら→
完璧な夏の日 (上下合本版)








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category: SF ファンタジー

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: SF  歴史  英国 
2015/02/28 Sat. 20:36 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: 霧箱

Jiroさま
こんにちは。

> 毎回毎回、ハードなものを読まれており
全然ですよ(笑)この『完璧な夏の日』など、装丁をご覧になるとお分かりでしょう?もうこの通りなのです。
こういう漫画チックな装丁は日本ならではで、英国版などはオーウェル風なんですよね。しかも原題も『The Violence Century』ですし。版元の方にいわせると、この手の装丁にするだけで若い購買層が増えるのだとか。

> ちょっとうまくプロモートしてもらえれば、TVに出て、教養系タレント(そんなジャンルがあるかわかりませんが、なんでも有りの世界だから可能性大)として、売れるんじゃないでしょうか?

そんな滅相もないことは考えておりませんよ…。


あ、ファッションチェック、お好きでしたか?
アカデミー賞って、不思議なのですが、どんなドレスを着ているかで誰が受賞するかがわかるんですよね。
もちろん、一番気合いがはいって素敵なドレスの人が主演女優賞や助演女優賞を射止めたりする。
例外は、レ・ミゼラブルのときのプラダの「裸エプロン」ドレスのアン・ハサウェイでした(笑)
当初はヴァレンチノの赤のゴージャスなドレスだったらしいのですが、ジェニファー・アニストンだったかな、彼女と色がかぶってしまったために急遽「裸エプロン」ドレスになってしまったそうなのです。陽の目をみなかったヴァレンチノはもったいないですよね〜

> 名前は知らないのですが、黒人の女優さんが着ていた、真珠のドレスが盗まれ、それが全部ニセモノだったらしいですね。カルバン・クライン?

「それでも夜は明ける」のルピタ・ニョンゴのドレスでしょうか。あれは素敵でしたよね。
おっしゃるとおり、カルバン・クラインだそうですね。
あのパールが全部本物だったら、とんでもないお値段になるなので、それはやはりフェイクかと…。

私は個人的には「ゴーン・ガール」のロザムンド・パイクの赤のレースのジバンシィが華やかで好きでした。彼女のノーブルな雰囲気や、ヘアスタイル、ジュエリーは小さいピアスのみ、殆ど裸足に見えるけどエレガントなサンダルなど、スタイリングも良かった!
嫌いだったのは、ジェニファー・ロペスのエリー・サーブのものでした。ヌードカラーであの露出ですもん。

ということで、では、ではまた。

Spenth@ #- | URL | 2015/03/02 Mon. 16:22 * edit *

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# |  | 2015/03/02 Mon. 13:46 * edit *

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