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読書日記、ときどき食日記

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イスラム国の正体 / 国枝昌樹 

道が混んでるなぁと思ったら、昨日は横浜マラソンだった。なんでも2万5千人もの人が参加したのだそうだ。
マラソンみたいなイベントも多いが3月はまた追悼の月でもある。東日本大震災もそうだし、オウムによる地下鉄サリン事件もまた3月に起きた悲劇だった。折しも昨日は、フジと NHKの双方でオウム特集が組まれており、その傷痕の深さには驚くばかり。ちょうど、本書『イスラム国の正体』を読んでいた途中だったことから、ある部分、オウムと重なった。

 Islamic state先日の後藤さんの処刑の顛末や、その残酷なシーンを含む動画をめぐる扱いなど、日本でも何かと話題になっているイスラム国。国際情勢の分析会社「ユーラシア・グループ」があげた2015年度の10大リスクのうち、5位に挙げられていることからも世界での影響力が伺える。
だが、やたらと残虐でヤバい過激派であること以外、謎に包まれている組織でもある。池上彰さんか誰かが既にどこかのテレビ局で解説しているのかもしれないが、それを見逃してしまった私のような者にとっては本書はとても良い解説書だと思う。
Kindle版で540円というお安さもよい。
その分、薄いんだけどね…。
著者は、元シリア大使で、90年の湾岸危機の際日本人の人質救出に尽力した人物であるという。10年近くをアラブ諸国で過ごしたというアラブ通である。

一番の疑問は、そもそもなぜに、イスラム国と「国」がついているのかということだった。
それは、彼ら自身が国家を名乗り、領土を主張しているばかりかそこで行政を敷いているからだという。実際税金も徴収しているそうだが、のだとか。不正が横行しているアサド政権下ではそれがないがために何度も徴収されていたというから、市民からはまだマシだと受け入れられているともいう。これはムスリム同胞団でも似たような話を聞く。
彼らが目指しているのは、7世紀にイスラム教の「カリフ」と呼ばれる統治者が統治していた治世なのだそうだ。7世紀とか!!!!もうどんだけよ?と思うが大真面目である分始末が悪い。女性の学ぶ権利はおろか人権すら望むべくもないし、奴隷制度も存在している。実際、イスラム国では奴隷の売買を行ってもいる。
首を切り落とすという残虐性もイスラム国の持つ特徴の一つだが、実はコーランでもムハンマドの言行録でもサディステックな方法で殺人を犯すことは禁止されているはずなのだという。何を根拠に彼らがそういった行為をしているのか著者は理解できないというが、その一方で、アラブ諸国では人の命を奪うということについて、それを思いとどまらせる心理的敷居が低い社会情勢があることも認めている。もう、命が惜しい人は近づかないほうが無難な場所であるということだ。
少し前に、どこかのカメラマンが外務省にパスポートを取り上げられて揉めていたがさもありなん。外務省の職員にしてみればたまったものではないだろう。日本人なんて鴨ネギなのだ。絶対、拘束されて人質にされちゃうんだから…
さらに、彼らは非常にインターネットなどのSNSツールを上手く使って効果的に広報活動を行ってもいる。これは、これまでの過激派やテロ集団にはなかったことだという。
何よりこれまでの過激派と一線を画すのは、その資金の潤沢さだとも言われている。これは税金と、誘拐ビジネスによるものが大きいという。彼らが主張する領土はかなりな原油産出量が見込めるものの、それを精製する技術がないため実は指摘されるほどの利益は見込めないのではないかと著者は指摘している。
折しもシェール潰しのために原油価格は下落しているのだが、どれだけのダメージがあったのだろうか?

また、実態がよくわからないとされているのは、彼らが烏合の衆であるからだという。つまり彼らは最初から明確な理念に裏打ちされたちゃんとした組織が発展してきたのではなく、斜面を転がり落ちる雪だるま式にその場その場で対応しつつ大きくなった場当たり的集団であるということだ。
烏合の衆説についてもそうであるが、なぜ若者が目出すのかについても、これらはかなりな部分で「オウム」と重なった。
イスラム国を目指すのは、そもそも親世代がアラブ諸国から先進国に移民してきた2世の「移民ムスリム」が多いというが、それ以外の人種も宗教も異なる人たちは、"一定のグループに属することによる「帰属感」、それからもたらされる「満足感」や「救済」といったものを求めて"いるのではないかと著者は推測している。キーとなるのは若者が抱えている「疎外感」だ。これは「オウム」のようなカルトにもそのまま当てはまる。彼らは決して恵まれていないわけではない。むしろ社会のなかではエリートでさえあった者も大勢いた。著者も指摘するように、90年代に「オウム」事件で盛んに論じられた問題が、今イスラム国に参加する先進国の若者たちの間で起こっているのだろう。ただし、その「疎外感」の解決の糸口は未だ見つけられないでいる。
今の若者もツィッターやらラインやらなかなか大変だっていうからなぁ…。もういっそスマホやめてガラゲーにしたらいいのじゃないかと思うのだが、そうもいかないのだろうなぁ。
そして、こうした先進国の若者たちは使い捨ての駒として自爆テロに用いられる。これもまた「オウム」ととてもよく似ているではないか。

そして、著者は元シリア大使という立場もあるのだろう、イスラム国のような過激派への手段として、「国際社会は、よりマシな独裁政権と付き合う覚悟」も必要だと締めくくっている。
これについては賛否あるだろうが、現状、アラブ社会には民主主義というものは存在しないということを鑑みれば、それが最も現実的な解決法なのかもしれないなと思った。




イスラム国の正体 (朝日新書)

国枝昌樹 (著)


Kindle版→ イスラム国の正体



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category: ノンフィクション・新書

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: イスラム国  アラブ  新書 
2015/03/16 Mon. 18:17 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: テロ集団

Jiroさま

今日は暑いくらいでしたね!
ただ、この暖かさを信用してはいけないのでしょうねぇ…。

> オウムといえば、日曜日にとぼけた感じのマンガで、サリンを撒くまでの
> 各死刑囚の心境証言を綴ったドキュメント番組見ましたが、親とか教師に
> 言わせるとみんなすごく素直な子だった、逆らったことがなかったと
> いってましたが、それが、あの麻原のばかげた教義を信じ込んでしまった事になったのでしょうか?

どうなのでしょうね?
麻原は当時もそれほど賢そうには見えなかったですし、オウムに比較的高学歴の人たちが集まった理由は私にはわかりませんでした。誰だったかが指摘していましたけれども、当時はバブル真っ盛りで、世の中の雰囲気も派手で軽佻浮薄でしたから、それに背を向けたいという心理も影響したのではと言っていました。

あの教団がまだ名前を変えて活動しているというのも、なんだか解せないなぁとつくづく思います。

Spenth@ #- | URL | 2015/03/17 Tue. 20:51 * edit *

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# |  | 2015/03/17 Tue. 15:48 * edit *

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