Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

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『暗いブティック通り』読書会 

金曜の読書会の課題本は、ノーベル賞作家パトリック・モディアノの『暗いブティック通り』
一応、"横浜翻訳ミステリ読書会"なので、毎回広義ではあれど、エンタメ系のものばかり扱ってきたのだが、ついにやってきましたよ。文学作品の番が!!!

プレゼンターはヨッシー。資料も用意してきてくれた。
参加者は11名といつもよりは少なめだが、4月の第一週の平日なので仕方ないかな。
  2015040301.jpg

まずは採点による総評から。
皆の平均点は6.5点。
下は3点から上は10点までとバラけていたが、最も多かったのは6点台だった。
言い出しっぺのヨッシーまでもが6点なんですけども…
今回は「明確な答えが得られない」ということをどう捉えるかで評価が割れた気がするな。

まずは、得点の低かった皆さんのご意見から、
・主人公に感情移入できなかった
・主人公の必死さなどが全く伝わってこなかった
・自分探しというテーマに魅力が感じられなかった

曖昧さがもどかしい
・謎かけを始めたのなら、ちゃんと明かしてほしい。
・最後の終わり方が唐突すぎる
もっと上手く書けるはず(!)
・謎をそのまま丸投げするという文学作品のいやらしさ(ずるさ)を感じた

・パリが舞台なのに、その情景が浮かんでこない
・なぜ、国境を超えなければならないのかなどの背景が理解できなかった
・表現が上手くない、訳に違和感がある

・エンタメを欲していたので、気分が乗らなかった
・高尚すぎて理解できなかった


まぁいつものごとく、割と辛辣な意見も多かったのだが、確かに時代的な背景は、我々日本人には少々わかりにくいかも。ナチという言葉は一言も出てこないし、ペドロがユダヤ人であるというのも推測することしかできない。
モディアノも日本人読者のことなど意識してないだろうから、そこは致し方ないかな。
しかし、本の趣味というのは食べ物の好みと似ている。偏食がちな人もいれば、何でも来い!の人もいる。今日は、ジャンクフードの気分なの、って日もあるように、エンタメ気分な日もある。如何ともし難いわけですわ。

逆に高得点だった人の意見としては
・文体が美しく、読みやすい
・情感たっぷりで、香水がほのかに香り、ルビローサの口ずさむ歌が聞こえてくるかのよう。
・靄のかかった幻想小説のような雰囲気がよい
・小道具の使い方が上手く洒落ている

・答えが明記されていないからこそ、自分自身の経験に照らした解釈という読書の楽しみが生まれる
・読み手に考えさせるところが良い
・もどかしさが心地よく、中毒になった



やはり「明確な答えが得られない」ことをどう受け取るかの差かな。
これに関して、普段あまり自分の意見を言わないおてもと氏が、珍しく自信満々に論理を組み立ててきたというのだ。これはここで是非披露すべきでしょう!そうでしょう!
ということで、以下「おてもと論」でございます。
但し、私の記憶もモディアノ作品同様ファジーなので、間違ってたらごめん。

① 我々ミステリ読みというのは、「犯人はお前だ!」といったカタルシスを求めるものである。
    ↓
② ところが本書には、そういったカタルシスは存在しない。
    ↓
③ カタルシスを感じさせるには、著者と主人公との距離が近くなくてはならない
    ↓
④ なぜなら、そうでなければ読者の共感が得にくいからである。
    ↓
⑤ ところが、モディアノは意図的に主人公との距離をとり生み出さないようにしている。
    ↓
⑥ それはモディアノが書きたかったのが"アイデンティの喪失"だったからである。


おてもとさんてば、「名探偵コナン」みたいよ(笑)
アプローチは違えど、私の感想も⑥とほぼ同じ。前エントリでも書いたが、本書から伝わってきたのは空虚さだった。
ただ、私は著者モディアノとこの主人公が遠いとは思わず、むしろ同化しているように感じたな。それに作品に漂う空虚さは、モディアノその人自身の出自に起因しているもの。だからこそ、彼は占領下のパリという舞台設定に拘っているのだと思う。
それに、私は本書の主人公自体、もしかしたら実体をもたないの存在なのかもしれないという気さえしたかな。具体的な何者でもないがゆえに、主人公は捕らえどころなく共感も感情移入もし難い。しかし、逆に誰でもないがゆえに、我々の、読み手の誰でもあり得るということでもある。
モディアノの言い方を引用するならば、ー建物の玄関にはそこを通る人々の足跡の谺のようなものが響いていて、注意深ければそれをキャッチすることができる。結局のところ、私はマッケヴォイでも何者でもなかったかもしれないが、そうした空中に漂う谺が結晶になっていき、私になったのではないかー
それを極限まで突き詰めていくと「我思う故に我あり」というヤツに行き着くのかもしれない。それは人間の深淵なるテーマでもある。
ファジーであるのには賛否あるだろうが、モディアノその人自身、今なおそれを模索し続けているのではないだろうか。だからこそ、モディアノ作品は良いのではないか。うまく言えないのがもどかしいのだが。

Identity-Theft.jpg今回の読書会で最も良かったのは、なんといっても「熱く語るおてもとさん」が見られたことかな。
アイデンティティの曖昧さについては特に熱く、曰く「私も、読書会でのおてもとと、会社での岡本は違うし、妻に対しての自分もまた違う。SNSでも違う自分を演じており、本当の自分が時々わからなくなることがある」とか。
えーと…、何かストレスでも? (笑)
というのは冗談で、確かにネット全盛の現代社会、アイデンティティを見失ってしまう人も少なくないだろう。そういう意味では、本書が今再び脚光を浴びているのは必然なのかもしれない。

ただ、帯の「冬のソナタ」がどうこういうのはやめたほうがいいと思うな。
その方がむしろ本は売れるんじゃないの?

ところで、本書に登場する香水はゲランのMitsukoではないかと思ったのだが、ミツコってどういう香りだったかなぁと思い、読書会前に高島屋のゲランでミツコのテスターを貰ってきた。
香りというものは記憶を呼び起こす。そういえば、昔、親しくしてくれた方がこれを使っていた。今は海外にいるので、年賀状のやりとりしかしていないのだが、今もエレガントなんだろうなぁ。と、私は思い出なんかに浸っていた。
そして、皆にこの香りを回覧したところ、
「ばあちゃん家の締め切った部屋がこんな感じ」とか言われてしまった…。
ばあちゃん家・・・
ばあちゃん家・・・

私もミツコに変えようかなと思ってたのに〜〜〜〜

ばあちゃん家・・・
ばあちゃん家・・・
ばあちゃん家・・・

以来、「ばあちゃん家」が谺してるんですが・・・


「ばぁちゃん家」はさておき、モディアノ読書会は想像以上によい読書会だったのでした。
次回は5月、「ミステリお料理会」でお会いしましょう。



暗いブティック通り


パトリック・モディアノ (著), 平岡 篤頼 (翻訳)
白水社 (2005/5/25)








ある青春 (白水uブックス)

パトリック モディアノ (著), Patrick Modiano (原著), & 1 その他
白水社 (2014/12/8)







失われた時のカフェで


パトリック・モディアノ (著), 平中 悠一 (翻訳)
作品社 (2011/5/2)




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category: 読書会

thread: 本に関すること - janre: 本・雑誌

tag: 読書会 
2015/04/05 Sun. 19:16 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: かおり

Jiroさん、こんにちは!

Gmailのほうにお返事してます。

Spenth@ #- | URL | 2015/04/06 Mon. 16:51 * edit *

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# |  | 2015/04/06 Mon. 15:58 * edit *

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