Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

06« 2017 / 07 »08
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.

ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件 / ミッチ・カリン 

あっという間にGWも終わり。
私はこの連休、意気揚々とお出かけ用のワンピースを買いにいったのだ。が!!!
なんと背中のファスナーがあがらない…
そのショップは30代の頃本当によく買い物をしていたところなのだが、最近はいつもゆるくて楽な格好が定番で、足が遠のいていた。確かに、このブランド全般普通よりも細身な作りなのではあるが、それにしても入らないとは!
林真理子じゃないんだから〜〜!思わず我が目を疑いましたよ。
あ〜の〜、もうワンサイズ大きいのは?と試着室のカーテンの陰からおずおずと聞いてみたが、「ワンサイズでしかお作りしてないんです」というツレないお答え…。
もちろん着られもしないワンピースなど買わなかったが、もうダイエットは待ったなし…(汗)
そうこう言いながら、いそいそと食事にでかけましたとさ…(←こんなことしてるからデヴ化するんだって!)

toad-in-hole.jpg

ダイエットを意識すると、逆に食べもののことばかり考えてしまう卑しい私…。本書のような美しく感傷的な物語にでさえ目を光らせてしまう。
ただ、『シャーロック・ホームズとお食事を―ベイカー街クックブック』のややスノッブなベイカー街風昼食の”ピリか辛レモンの詰め物”は酷い味だったが、本書の老シャーロックはもっと馴染み深い庶民的なものを供されているようだ。
本書のシャーロックは御年93歳。時代は第二次世界大戦後へと移ろっている。ハドソン夫人も既に故人となり、彼はベイカー街を去り、今はサセックス・ダウンズの田舎で養蜂をして静かに暮らしている。ハドソン夫人にかわって彼の世話をやくのは、戦争で夫をなくした寡婦のマンロー夫人だ。
その彼女がシャーロックのために作る料理は、サンデーローストの残りを使って作るシェパーズパイ(ローストビーフの残りで作るのなら、正確にはコッテージパイ)。マンロー夫人の作るトード・イン・ザ・ホールはホームズはお気にめさないらしい。
ちなみにトード・イン・ザ・ホールのtoadはヒキガエルの意味で、直訳すれば、穴の中のヒキガエル…(怖)でも、実際はそんな恐ろしげなものではなく、ヨークシャープディングの生地のなかに生ソーセージを入れて焼いたもの。私もナイジェル・スレーターのレシピで一度作ったことがあるのだが、うまく膨らまず撃沈した。

mr-holmes-140710-585.jpg

さて、さて、やたらと前置きが長くなってしまった。
なんといっても本書のシャーロックは超高齢。あれほど豊かだった頭髪はまばらになり、元々痩身の身体は薄いライスペーパーに包まれた骸骨のようになっている。ローヤルゼリーの老化防止効果のせいか、二本の杖を使えばまだ歩くに困ることはないが、記憶の衰えは否めない。
そんな彼は二ヶ月前に日本から戻ってきたばかりだった。ローヤルゼリーの効能に関する論文を通じて知り合ったウメザキという人物に招かれての旅行だったのだ。
ウメザキの日本招聘に隠されていた真の意図、ホームズの回顧録の中で『グラス・アルモニカの事件』と名付けられたケラー夫人にかかる事件、そして養蜂場で死亡していたマンロー夫人の一人息子のロジャー…
これらバラバラの三つの事件から、ホームズが導き出したのは…?

シャーロキアンはとまどうかもしれない。というのも93歳のホームズの老人像があまりにリアルなのだ。
まだ矍鑠としているとはいえ、あれほど切れ者だった彼も、時の流れには勝つことはできない。うつらうつらとうたた寝をし、記憶も不鮮明なことが多くなる。
だが、内面世界に関していえば、私は今の老いたシャーロックのほうが好きかも。
シャーロックは魅力的な誘惑には見向きもせず生涯独身で、科学的手法の探索に全精力を傾ける孤独な人生を送ってきた。科学的手法の探索とは、訳者が解説で言及しているが、シャーロックの論文『人生の書』で詳述されている"推理と分析の科学”に他ならない。それを理念とし、時に他人から見ると感情に乏しく機械的にすら見えた彼が、過去を振り返り、またロジャー少年の事故を悼み、人間的な心情に浸る様子はより身近に感じられる。
若かりし頃は揺るぎなかったその論理的思考も変化しているのだ。彼が直面したのは、自らもまもなく対峙せざるを得ない「死」という問題で、人間の運命の不可思議さという"推理と分析の科学”の手に負えないものだ。その謎について考察する本書は、なるほど「名探偵最後の事件」というにふさわしいかもしれない。
だが、本書における名探偵は、それら三つの事件をそれまでのように科学的分析と論理的な推理を用いて解決するわけではない。その不確かで曖昧なものは老シャーロックのなかでじんわりと受容されていくのだ。
ウィリアム・K・クルーガーの『ありふれた祈り』にも思ったが、大切な人を亡くした経験のある方は、自分自身の中での不幸の消化の過程と重ねて読まれるのではないだろうか。

全体を通してノスタルジックに仕上がっているが、戦後まもない日本の描写などは、外国人作家が書いたとは思えないほど。特に戦後まもない広島の市電の中で、シャーロックが出会ったサングラスに地味な着物姿の女性のくだりは鮮烈でハっとさせられた。かつては美しかったであろうその女性の顔を覆うケロイドは、その当時の日本そのものを連想させるのだ。他にも上手いなぁと思わせる描写には枚挙にいとまがない。
老シャーロックというキャラクターのみならず、文章を味わうという楽しみもある一冊だと思う。

なんと映画化されており英国では年内公開予定なのだとか。
老シャーロックを演じるのは、イアン・マッケラン。これがぴったり!実際、イアン・マッケランはもっと若いだろうけど。ウメザキ役は真田広之。
真田広之はスピルバーグ制作のドラマ『エクスタント』でも重要な役を演じているし、存在感もオーラもハリウッド俳優に負けていない。「南総里見八犬伝」の頃から比べると想像できないほどの成功だわ!



ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件

ミッチ・カリン (著), 駒月 雅子 (翻訳)
KADOKAWA/角川書店 (2015/3/27)


Kindle版はこちら→
ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件









関連記事

category: ミステリ/エンタメ(海外)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 英国 
2015/05/06 Wed. 15:57 [edit]   TB: 0 | CM: 2

go page top

この記事に対するコメント

Re: タイトルなし

naoさん、おはようございます!

> どっちにしろ奴らの考えるイメージ(センス)は食欲減退させます。
本当にそうですよね。

> しかしこのシチュエーションは日本人の作家の誰かが書くべきであったような・・残念。
> (もしかしたらもうそんな同様の作品はとうにあって、自分が知らないだけかも)
いやぁ、naoさんがご存知ないのならないでしょう!
しかし、謝辞にある大江や奥泉がこういうのを書けるとは思えず…

> 著者が多大な影響を受けたというその『ガス燈に浮かぶその生涯』(ホームズの伝記)はなかなかよく出来ておりましたよ(労作)。
私、これ読んでないので機会があれば読みたいなぁ。


> 「ゆるくて楽な格好が定番」とありますが、それはユニクロ?
> ついにSpenthさんも・・などと想像してしまうのでした。
いいえ、私は断固としてユニクロおばんさんは拒否しますよ!(笑)
絶対痩せて、あのブランドの服を買ってやる〜〜〜〜!


> 真田広之と角川映画『里見八犬伝』、そこに結びつくあたり、
> 昭和の同じような時代(年代)をSpenthさんも生きてきたヒトなんだなぁ・・と
もちろん!昭和ですよ!
平成ってついこの間のような気がする…っていっていたら、平成生まれの人がもうとっくに20歳を超えているんですよねぇ…トシとるわけだわ。

Spenth@ #- | URL | 2015/05/08 Fri. 07:03 * edit *

いま読んでいる途中であります。
写真の料理はトード・イン・ザ・ホール?
穴の中(生地)から覗いているカエル君(ソーセージ)のイメージはなく、
お腹見せて水に浮かんでいるイメージでありますなぁ・・しかし、
どっちにしろ奴らの考えるイメージ(センス)は食欲減退させます。

引退したホームズが田舎町にひきこもって(?)養蜂をいそしんでいるというのは、
「事件簿」所収の短編にあった通りですが、日本訪問は大歓迎!(ようこそ日本へ!)。
しかしこのシチュエーションは日本人の作家の誰かが書くべきであったような・・残念。
(もしかしたらもうそんな同様の作品はとうにあって、自分が知らないだけかも)

本書の頭に謝辞があって、意外な名前(日本人作家)も見かけられますが、
それは置いてその最後にベアリング=グールドとその有名著作(!)に特別な感謝を捧げるとあります。
著者が多大な影響を受けたというその『ガス燈に浮かぶその生涯』(ホームズの伝記)はなかなかよく出来ておりましたよ(労作)。

ところで、ブログ記事の冒頭の服装についての件、
「ゆるくて楽な格好が定番」とありますが、それはユニクロ?
ついにSpenthさんも・・などと想像してしまうのでした。

もうひとつ・・
真田広之と角川映画『里見八犬伝』、そこに結びつくあたり、
昭和の同じような時代(年代)をSpenthさんも生きてきたヒトなんだなぁ・・と
感慨な気持ちになるのでした(失礼)。
長くなりました・・ではまた!

nao #6gL8X1vM | URL | 2015/05/07 Thu. 21:48 * edit *

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://spenth.blog111.fc2.com/tb.php/469-686e7e7b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top

RSSリンクの表示

リンク