Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

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ザ・ドロップ / デニス・ルヘイン 

九州へ旅行に行っており、台風とともに戻ってきた(笑)
昨夜は横浜も大雨だったが、今日は気持ちのいい晴天!そして暑い…まだ5月なんだけど。
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旅行は母と妹との三人で行ったのだが、これが疲れたのなんのって…。ただ、奮発して良い宿にしたのは大正解!
というのも、非難されることを承知で白状すれば、私は自分の母親がとてもとてもとても苦手なのだ(とてもは三回言った!)愛情深い母で長所もたくさんあるのだが、冗談やウィットの類いを一切解さないので、会話は常に噛み合わない。絶望的にソリが合わないのだ。冗談抜きに一緒にいるのは半日が限度で、だから20代30代の頃は、余程のことがないかぎり、実家には寄り着かなかった。
他人ならば距離をおけば済むが、親子となるとそうもいかない。ましてや母もいい齢ともなれば、ね。
就中やっかいなのが、母はこんなにソリも趣味も合わない私のことが大好きだと公言して憚らないことである。そして、のべつ幕無し話しかけてくるのだが、前述の通り会話は噛み合わないため、こちらとしては苦行としか言いようがない。
妹はさすがは次女で、逃げることに長けている。(ちなみに父もうまい。)必然的に、今では時間に余裕のある私が生贄になるというわけで。
こういうことを口にすると眉を顰める方もいるだろうが、私だってできることなら眉を顰める側に回りたかったわ。
本書も、何度となく邪魔されたし、挙げ句イオン株の売り時まで逃してしまった!

どうでもいいことを長々と書いてしまった。愚痴ってしまってごめんなさい。
だが、私自身のことを鑑みても、最悪のことというものは案外ありふれているものだ。世はままならない。シチュエーションこそ違うが、本書のテーマもそれである。
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さて本書の主人公は、ボストンの裏町に生きるバーテンダーのボブ・サギノウスキ。彼は"カズン・マーヴの店"で働いているが、マーヴはその名の通りボブの本当のいとこだ。正確には、もはや"カズン・マーヴの店”のオーナーはマーヴではなく、チェチェン人の手に渡ってしまっている。
ボブの目印は孤独だった。望んでいるのは、ただ、ひとりでいたくないということだけだったが、それが叶えられないのはわかっている。彼は敬虔なカソリックで、毎週欠かさず教会に通っているものの、聖体を受けとったことはない。昔から。それを気にかけている神父は、「大罪を犯している場合に聖体を受けなければ、聖なるものを穢したことで被る禍いよりはるかに恐ろしい目にあうのだ」と説得するが、頑として受けようとしないのだった。
そんなボブはクリスマスの二日後の冷え冷えとした夜に、一匹の子犬を拾う。その犬は、仕事の帰り道に通りかかった歩道横のゴミ箱に捨てられていた。死にかけていた子犬を胸に抱いたそのとき、近くのアパートに住むナディアが声をかけてきたのだった。ナディアは、小柄で、あばたで美しさは損なわれ、喉元には赤黒いミミズ腫れがあった。彼女によると、犬は闘犬(ピットブル)で引き取り手は少ないだろうということだった。彼女の笑みは酔ったピエロを思わせ、犬は飼うにやっかいだとされるピットブルだったが、それでも彼女と子犬はボブにとってまぎれもなく天で配られる聖体だったのだ。彼は幸福だった。
そんな折り、マーヴの店に強盗が押し入り、売上金が奪われる。それはチェチェン人の金だ。チェチェン人は激怒し、ボブとマーヴに犯人を見つけ金を取り戻すよう脅す。
やがて、年間で最も多額の金が賭けられるスーパーボウル・サンデーが近づいてくるのだが…。
Communion.jpgルヘインという作家のこの湿り気を帯びた暗さはどこからくるのだろう?といつも思う。
作家としてはこの上ないスタートを切り、以降第一線で活躍しつづけている成功者であるのに。
だが、本書に描かれているように、誰にでも陰はあるものだし、悪いことや悪いものというのは、退屈なくらいこの世にありふれているものだ。
そんな暗さが、自分の心境にマッチした。実際、読んでいた時分の湯布院は、曇り空ばかりだったことも作用したのかもしれない。
それとも、私ももしかしたらボブ同様「黒い羊」であるからなのだろうか(笑)

子犬を拾って、ナディアと知り合ったことで、自分の孤独の殻が破れたような気分になるボブの気持にもとても共感を覚えてしまった。
物語が進行するに連れ、なぜにボブが頑に聖体を受け取らないのかが明らかにされる。それは大方の想像の通りなのであるが、あまりにもボブに同化してしまうあまりに、それがいけないことなのかさえ揺らいでくる。
こうした複雑な人物造型は、ルヘインならではで、相変わらず巧いんだな。これが…。その奥行きと深さが違う。
訳者も指摘するように、コンパクトながらルヘインらしさというものを存分に味わえる作品に仕上がっていると思う。ただ、ルヘイン作品は非常に文学的に過ぎるきらいがあり好みが割れるだろうが、だからこそルヘインという作家は別格なのである。
本書には、ボブに限らずドロップ(堕落)した人間が多数登場する。聖体を受け取らないボブを怪しむ刑事もその一人なのだが、彼にルヘインはこう言わせているのだ「罪を犯すことがポイントなのではない。生まれつき堕落していることを受け入れ、人生でそれを償おうとしているかどうかだ。」
感慨深い言葉である。

訳者によれば、本書は元々短編だったものが映画化(トム・ハーディ主演)されることになり、その脚本を長篇に仕上げた作品なのだという。犬がかわいい!スタフォードシャー・テリアかな?
映画のほうは、残念ながら日本公開は未定とのことだが、ルヘイン ファンには嬉しいニュースも飛び込んできた。
『運命の日』『夜に生きる』に続くコングリン三部作の掉尾を飾る『World Gone By』が近々発売になるというのだ。次もまたジョーの物語だというが、訳者をして「しばらくの間、この小説のことしか考えられなかった」というほど。今年のベストはこれが濃厚?

ザ・ドロップ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

デニス・ルヘイン (著), 加賀山 卓朗 (翻訳)
早川書房 (2015/3/6)

Kindle版はこちら→ ザ・ドロップ









運命の日(上)〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
運命の日(下)〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕


デニス・ルヘイン (著), 加賀山 卓朗 (翻訳)
早川書房 (2012/3/5)







夜に生きる 〔ハヤカワ・ミステリ1869〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

デニス・ルヘイン (著), 加賀山 卓朗 (翻訳)
早川書房 (2013/3/8)

Kindle版はこちら→ 夜に生きる


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category: ミステリ/エンタメ(海外)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  早川書房  映画化 
2015/05/13 Wed. 19:32 [edit]   TB: 0 | CM: 4

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この記事に対するコメント

Re: タイトルなし

naoさん、おはようございます!

>どこの家族もそんな感じなのではないでしょうか(無責任発言)。

これこそ、naoさんのおっしゃるように「人生の過酷を強いられてもそれに耐えるほかないという諦観」でしょうかね(笑)
ただ、私はホームズは最終的にはもっと仏教的な悟りの境地に至ったのではなかったかという気がしました。


>さて『ザ・ドロップ』・・これは(変種の)ノヴェライズの作品なのでしたか。
その過程から、あまり出来に期待できそうにない感じもしますが、

確かにルヘイン作品としては小粒ですね。
好みはそれぞれかな。私は思うところが多々ありました。


>別に日本でなくてもいいような印象も持ちました・・ちと残念。

え?そうですか?
私はあの戦後日本のなんともいえない敗北感と、それを受け入れ前を向いていくという強さは老境のホームズの物語にひったりだと思いました。
それはそのまま、ホームズの心境に当てはまるのではないかなと。
といっても、私は戦後まもない日本など知らないのですけれどもね(笑)

>こちらはようやく新訳版が揃った越前訳のクイーンの国名シリーズ読んでるトコなのでした・
おお!
越前さん、この間までクイーン読書会で全国行脚をやっていたみたいです。
横浜読書会にも『Xの悲劇』でいらっしゃたんですよ。

Spenth@ #- | URL | 2015/05/17 Sun. 09:57 * edit *

なんか家族の悲喜劇の連想される九州旅行であった様子。
まぁ・・どこの家族もそんな感じなのではないでしょうか(無責任発言)。

さて『ザ・ドロップ』・・これは(変種の)ノヴェライズの作品なのでしたか。
その過程から、あまり出来に期待できそうにない感じもしますが、
そうではない様子・・自分としては頁の少ない(薄い)ところなど好感です。
本作も近く読みたいと思います(来月かな?)。

『ミスター・ホームズ』は微妙な印象の作品でした(自分は好きな方)。
終戦後日本が舞台の場面があって、よく描けているとも思うのですが、
別に日本でなくてもいいような印象も持ちました・・ちと残念。
その部分、カズオ・イシグロの筆致(初期作品の)など少し連想。
人生の過酷を強いられてもそれに耐えるほかないという諦観。
すべてのみ込まれてしまうという慄き・・孤老の侘しさ沁みてきましたなぁ。
ふう・・。

ようやく遅く『火星の人』読むところです・・いつもSpenthさんから遅れること数か月。
こちらはようやく新訳版が揃った越前訳のクイーンの国名シリーズ読んでるトコなのでした・・これまたどれもビミョーな印象。
ではまた!

(持ち株はどれも決算で下方修正・・暗い日々か続いてます・・ふう)。

nao #6gL8X1vM | URL | 2015/05/16 Sat. 23:29 * edit *

Re: タイトルなし

Jiroさん、こんばんは!

湯布院は落ち着いていて大好きです。箱根同様にちょっとお宿は割高ではありますが…。
泊まったのは、今回奮発したので(!)12部屋しかない静かなところでした。星野やさんのように、敷地内にバーもカフェも美術館などもあって充実。 何より中国人がいなかったのが良かった!彼らは箱根とかにもわんさか押し掛けてきてますからね〜。
福岡からゆふいんの森という特急だったので、別府には寄らなかったのですが、別府はすごいことになってそうだな〜〜


>修善寺、草津、銀山温泉等々が私の温泉のイメージです。

あ、なんか殺人事件が起きそうなラインナップ!!!(笑)
銀山温泉って渋いですね。私はあまり東北方面に行ったことないのですが、お湯がよさそう。


>さて、ルヘインですが、料理会の時も言ったように、やはり、ミステリーというより文学タッチですね。純文学とミステリーのハイブリッドかな。

ルヘインは読者に考えさせるでしょう?だからこそ好きです。
善悪もモラルもその人によって異なるものだと思うから。
彼の独特の陰やウェット感も好みだったりします。
ただ、『ザ・ドロップ』は先に映像ありきで、ルヘインとしてはある種の「試み」だったのでしょうね。
コングリン兄弟の作品に比べると、おっしゃるように確かに小粒ではあります。
映画は日本未公開とのことですが、見てみたいな。wowowプレミアとかでやってくれないかな?

また、横浜読書会向きというのは…
う〜ん、各々趣味がバラバラなので難しいんですよね。
ただ、傾向をみてると、文学的なものは概ね駄目で、エンタメが比較的好感触な感じかな?
映画好きも多いので、映像化されていることももしかしてポイントなのかな?

ただ、おっしゃるように、このミスの上位に入るようなものは、概して高評価ではないです。
ルヘインの『夜に生きる』は勿論のこと、W・K・クルーガーなども想像以上にボロクソでした(笑)
というか、だからこそ、クルーガーの「ありふれた祈り」は、年末の各ミステリランキングで確実に10位以内には入るのじゃないかと私は見ています(笑)

ちなみに、私はクルーガーという作家自体も好きなのですけど「ありふれた祈り」、大好きでした!!!
先日のコンベンションで、あの杉江松恋さんも絶賛されていてなんだか嬉しかったです。
杉江さん、わかってる〜〜〜!

とうことで、では、では、また!

Spenth@ #- | URL | 2015/05/15 Fri. 19:38 * edit *

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# |  | 2015/05/15 Fri. 09:57 * edit *

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