Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

03« 2017 / 04 »05
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.

切り裂きジャック 127年目の真実 / ラッセル・エドワーズ  

紀伊国屋書店主催のカズオ・イシグロのサイン会に当選した。(講演会も当たった!)
うっほ〜!

このサイン会では、なんと希望すればカズオとのツーショット写真も撮ってくれるそうなのだ。
わ〜い!とミーハーに喜んでいたのだが、この間試着したワンピースは入らなかったし、ふいに撮られた写真も自分が思っている以上にデブい。お誘いも多く調子に乗って食べちゃってたからなぁ…
ダイエットは急務である。
なので、珍しく真面目にジム通いをしている私…。
そのジムのトイレに”肥満遺伝子キット"の広告が貼ってあるのだ。トイレのドアの内側にどーんと貼りつけてあるので嫌でも目に入る。
まあね、肥満遺伝子の有無なんて親をみれば一目瞭然なんだけど…。ふくよか〜なオバさまたちとも、「わざわざ検査なんかしなくても、わかってるし!」と冗談を言い合ったりするのだが、どうやら有無を調べるのではなく、肥満遺伝子のタイプを明らかにして、遺伝子にあったダイエットをしましょう!というものらしい。
しかし、結局のところ自分のタイプがわかっても、問題はそのタイプによいとされる食事制限なり運動なりを継続できるか否かであって、それがちゃんと守れるような人はそもそも悩んだりしないのだろう。
jack-the-ripper.jpg

ダイエット話はさておき、本書『切り裂きジャック 127年目の真実』は、切り裂きジャックの被害者のショールをもとに、最新の科学を駆使して犯人を特定するまでの過程を描いたノンフクションである。
切り裂きジャックによる1880年代にロンドンで起きた連続売春婦猟奇殺人事件は、未解決で数多の犯人説がある。コナン・ドイルはその正体を「女装した男性」であると推理しているし、ヴィクトリア女王の孫、プリンス・エディ説も根強い人気がある。また、パトリシア・コーンウェルも、大金を投じてDNA鑑定や筆跡鑑定を行い、画家のウォルター・シッカートが真犯人であるとして、『真相“切り裂きジャック”は誰なのか?』という本まで出版した。だが、これは物的証拠に乏しいとされている。
現在のDNA鑑定の技術や法遺伝学は、昔に比べて格段に進歩した。思い出すのは足利事件の菅家さんだ。事件当時導入されたばかりの信頼性に乏しい検査結果に頼った司法の被害者と言えるだろう。

本書の面白さは、科学的手法を駆使して物的証拠の裏付けをとっていく過程にある。が、他方で、著者は信仰深い人間であり、科学では証明できない「何か」を信じてもいるのだ。その「何か」は、言葉にすれば、導きとか縁といったものになるのだろうか。だが、この二つの真逆のものが一つでも欠ければ、真相解明には至らなかっただろう。
そして、本書の肝ともなるのは、彼がなぜそこまで切り裂きジャック事件の真相解明に拘泥したのか、なのであるが、その秘密は最後の最後に明かされる。
naming Jack the Ripper

著者のラッセル・エドワーズは、2007年の聖パトリックの祭日に、オークションで件のショールと出会う。"切り裂きジャック"事件には以前から興味は持っていたが、彼は全くの素人で、ジャーナリストでもなければミステリーマニアというわけでもない。
オークションという言葉の響きから、当初、金持ちの趣味が講じてのことだろうと思ったが、意外にも彼は苦労人で、育ちも良いとは言い難い。実際、ホームレスをしていたこともあるそうだ。但し、ショールを入手した当時には実業家としてある程度の成功をおさめ、良き家庭人ともなっている。

そのショールは、切り裂きジャックの4番目の被害者キャサリン・エドウズのものと推定されていた。
切り裂きジャックは、ロンドンのイーストエンド近辺で、5人の売春婦を次々と殺害したと言われている。この5人というのは、公的にジャックの犯行であると認められた数である。(それ以前にも二人の売春婦が無惨な殺され方をしている)
巻頭にはショールとともに、ジャックの被害者の写真も掲載されているが、文字通りの惨さだ。Kindle版写真が不鮮明でよかったと思うほど。

イーストエンドは、今では流行最先端のたまり場として脚光を浴びている。しかし、1880年代は、今とは比較にならないほど治安も悪く、移民の大洪水で溢れた人種のるつぼのような場所だったという。ロンドンで最も出生率と死亡率が高く、婚姻率は最も低い場所でもあった。殆どの人々がその日暮らしで、特に住宅事情は深刻だった。安宿のベッドは一日単位で貸し出されていたという。男は毎日違う仕事を渡り歩き、犯罪に手を染める者も少なくなく、女は追い込まれれば身体を売ったという。
こういった状況は、現代日本のネットカフェ難民を彷彿とさせる。一時期一億総中流ともいわれた日本だが、格差が拡がりつつある昨今の現状は、19世紀のイギリスと変わらないのかもしれないとも思う。
著者は、彼女らを"売春婦"とは呼ばず、同情の念を持って、”不運なもの”と呼ぶ。彼女たちの多くは、普通の仕事で生計を立てようとしたが、飢えか、野宿か、身体を売るかという選択を迫られて、やむを得ず売春に引きずり込まれてしまったからだ。ただし、ジャックの被害者のいずれもが、アルコールに溺れて酒代欲しさに春を売っていたのも、また事実である。
ジャックは、決まった方法で死体を切り裂き、記念のように内蔵を持ち去り、下腹部など性的な意味合いを含む場所を切り刻んでいた。被害者は全て"不運な者たち”である。
件のショールの持ち主、キャサリン・エドウズ殺しは残虐の極みだった。内蔵が切り取られて喉のまわりに置かれており、頭部はほぼ切り落とされ、削ぎ落とされた鼻は頬の上に置かれていたという。医師の所見によれば、左の腎臓と子宮が持ち去られていた。その手際の良さから、犯人は、腹腔の臓器の位置がわかる医師ではないかとも言われた。
キャサリンはホームレスだったため、持っている洋服を全て身につけていた。本来、それらの衣服は遺留品として保管されるはずだったが、このショールが上等のシルクだったために、警官が自分の妻のために持ち帰ったのだった。今なら考えられないが、DNA検査など望むべくもない当時は、被害者の持ち物は捜査の役には立たなかったため許されたのだろう。そして、不思議な縁をたどり、著者の手元にやってきたのだった。
幸運なことに、100年以上も昔のそのショールには血痕と精液が付着していた。そこから、ミステリーの主人公のごとく、著者の奮闘が始まる。リバプール・ジョン・ムーアズ大学のジャリー博士の協力を得られたことは最大の幸運だっただろう。彼の専門分野は法遺伝学と遺伝医学・ほ乳類遺伝学だ。
だが、切り裂きジャックの謎解明の道は、決して平坦なものではなかった。
まず、そのショールに残された血痕が本当にキャサリン・エドウズのものか確証を得なければならない。そのためには、キャサリンの子孫のDNAサンプルが必要だった。さらに、ショールに残された精液と、様々な状況から最も有力な容疑者だと推定される人物の子孫のDNAを比較しなくてはならない。
こんな難題に挑んだのが、ごく普通一般人であることに驚きを禁じ得ない。そしてさらに驚くべきことに、多くの幸運も重なったとはいえ、彼はそれをやり遂げたのだ。

精液のDNAからは、ジャックを目撃した人物の供述にあった"褐色の髪"とにきび面が推定できた。ごく微量のDNAから127年前に生きた人物の容姿が推定され、それが同時代の目撃証言に一致したのだ。こうした科学の進歩には驚くばかりである。
肥満遺伝子の特定など初歩の初歩。将来的にはDNAからプロファイルどころか、その人物そのものを復元可能にすらんるのだろうか?

ただ、この127年目の真実は、個人的には少々やるせないものだった。
犯人は重度の精神病を患っていたのだ。そして精神病院で監禁状態のまま衰弱死している。おそらく彼は統合失調症だったのではないかと推測する。この統合失調症は、遺伝的要素が大きいといわれている。が、それ以外に当時、とりわけユダヤ系移民に向けられた差別からくる環境要因も大きく作用したのではないかと考えられた。犯人はイーストエンドに住んでいたユダヤ系移民だったのだ。
社会的混乱が起きている国から、移住したり新しい環境に放り込まれたりすると、統合失調症の発症率は跳ね上がるという。その上、その移住先でマイノリティとして暮すことはさらに倍率を高めるとも言われている。
残忍な犯行を犯した切り裂きジャックもまた、被害者と同じ社会的弱者だったのだ。
そして当時は、統合失調症患者の妄想や幻聴といった症状を抑制する抗精神薬はまだなかった。



切り裂きジャック 127年目の真実

KADOKAWA/角川書店 (2015/2/27)
ラッセル・エドワーズ (著), 深澤 誉子 (その他)


Kindle版はこちら→ 切り裂きジャック 127年目の真実







関連記事

category: ノンフィクション・新書

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

2015/06/01 Mon. 17:07 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

この記事に対するコメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://spenth.blog111.fc2.com/tb.php/476-9dffb47e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top