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読書日記、ときどき食日記

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夏の沈黙 / ルネ・ナイト 

先日のイイノホールが寒かったせいか、風邪をひいてしまいこれが治らない。なので家でじっとテレビ三昧。
その間、なんとあの酒鬼薔薇こと元少年Aが手記を出版したというではないか。ワイドショーによれば、出版は元少年Aから持込まれたものらしい。聞けば、版元は有害図書で有名な出版社である。
遺族は出版の中止と回収を求めているらしいが、それはそうだろう。
「地べたを這いずりまわる生活」に嫌気がさしたのだろうか。酒鬼薔薇本人と彼が起こした事件は、未だある種のバリューがあり話題性も抜群。それを裏付けるかのように、このご時勢に初版は10万部だという。
しかし、この出版は、本人にも版元にも結果的に禍いしかもたらさないのではないかという気もするのだが…。
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さて、本書も一冊の本がもたらす波紋に打ちのめされる女性の物語である。
先のコンベンションの二次会の際、東京創元の編集者の方が「これは面白いですよ」とおっしゃっていたのだが、おっしゃる通り!
個人的にはビブリオで推されていた『探偵は壊れた街で』よりも断然読み応えがあった。『ゴーン・ガール 』が好きだった方には特にオススメ。読書会向きでもあると思う。
一言付け加えるならば、『ゴーン・ガール』ほどのイカレちゃった過激さはない。ただし、似たようなことは誰に起こっても不思議ではないという逆の恐ろしさがあるのだ。

物語は二人の人間の視点で章ごとに語られていく。追いつめられる者と追いつめる者だ。
追いつめられるのは、ドキュメンタリー番組のプロデューサー、キャサリン・レーヴィンズクロフトである。輝かしいキャリアに弁護士の夫、既に独立した一人息子、彼女の人生は順風だった。新居でその本を手にとるまでは…。
E・J・プレストンという著者の『行きずりの人』というその本に書かれていたのは、20年前にキャサリンの身に起きた出来事だった。名前は変えてあるものの、まぎれもなく主人公は彼女自身で、あの日の午後に何を着ていたかまで寸分違わない。「生死にかかわらず実在の人物に類似している点があるとすれば…」という思わせぶりな断り書きには赤字さえ引かれていた。
それは、今まで夫にも息子にも話したことのない彼女だけの秘密のはずだった。その事実にキャサリンは打ちのめされ、同時に恐怖する。それこそ嘔吐するほどに。
nicon beach

いま一人の追いつめる者は、引退した元教師のスティーヴン。彼は二年前、亡くなった妻ナンシーの遺品のなかからある原稿を発見する。それは今や復讐のツールだ。自費出版によって製本されたその本は、ターゲットに向けて放つ矢そのもの。ターゲットはあの女。彼女には苦しんでもらわないと…。

果たしてスティーヴンの思惑通り、キャサリンは追いつめられていく。
スティーヴンによって、あの本はまずキャサリンの息子ニコラスへ届けられ、続いてはキャサリンのいかがわしい写真とともに彼女の夫ロバートにも届けられる。ニコラスはともかく、ロバートは強烈な拒否反応を起こす。円満な家庭は今や崩壊寸前。おまけにそのストレスからキャサリンは職場で失態をおかし、今やキャリアまでも失おうとしていた。

20年前に何が起こったのか?キャサリンが誰にも言わずに秘めていた秘密とは?
やがて、その真相が明らかになるのだが…。
renee knight

これね、何がすごいって、後半に真実が明らかになると様相がガラリと変わってしまうのだ。キャサリンの印象はもちろんだが、それまでの研ぎすまされたサスペンスが、一転、家族愛の恐ろしさを痛感させる物語となる。言うまでもないが、後者のほうが遥かに恐ろしい。
人間、誰しも見たいものだけを見るという傾向を持っている。見たくないものには無意識にフタをする。家族間、殊に親子間だと尚更だろう。酒鬼薔薇の両親はどうだったのかは知らないが、彼らとて当初は息子の無実を信じたのではないか。
解説者は、これをして「家族という人間関係が狂気を生み出す触媒になりうる」と表現する。その「狂気の触媒」は、愛情の裏返しでもあり、多かれ少なかれ誰しもが持ちうるものだ。

著者ルネ・ナイトは本書がデビュー作であるというが、描写力も群を抜いている。
一人称で語られるスティーヴンの章では、狂気と正気の狭間を行き来する彼の内面のその不穏さが漂ってくるよう。ナンシーのお気に入りだったカーディガンを男のスティーヴンが常に身につけるということもさることながら、チャツネの瓶に入っていた亡き妻ナンシーの長い白髪をスティーヴンが綺麗にしゃぶるシーンは、ぞっとすると同時にどこかしら気持がわからなくもない気もして、それがさらに肌を粟立たせた。
その反面、キャサリンの章の語りは三人称で、この意図的な語りの違いは非常に効果的に作用している。

真相は、この粗筋からは遠く想像の及ばないものだろうと思う。けれども、憎らしいことにちゃんと伏線らしきものもあったりする。
この結末がわかったという人は、濃い繋がりのない人か、もしくは余程酷い目にあった人なのではないだろうか。
それは言い過ぎにしても、キャサリンの体験をどう感じたか、彼女がどうすべきだったのか、または今後どうすべきなのかをも含め、人それぞれに異なる意見を持つだろう。男女によっても差異があるだろうし、親という立場か否かによっても異なるかもしれない。
これで読書会をやったらさぞ面白いことだろうなぁ。




夏の沈黙


ルネ・ナイト (著), 古賀 弥生 (翻訳)
東京創元社 (2015/5/29)


Kindle版はこちら→ 夏の沈黙




しかし、しかし、次回の読書会の課題本は『探偵は壊れた街で』なのです。
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category: ミステリ/エンタメ(海外)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

2015/06/15 Mon. 21:29 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: タイトルなし

naoさん、こんばんは!

お久しぶり!と思ったら、うわ、大丈夫ですか?!
咳が止まらないのは同じです。あと喉の渇きと鼻水も…

しかし、私はそれ以外は結構元気かも。
あ、株のほうは金融株を中心に死に体です。
ギリシャはもういい加減にしてほしいです…デフォルトするならしてみれば!という感じ。
そんなこんなで、ヤケも半分、食欲もあったりします。

naoさんの風邪はかなり重症のご様子ですが、病院には行かれました?
とにかく早く治りますように!
そして日本株も大幅に持ち直しますように!

Spenth@ #- | URL | 2015/06/16 Tue. 19:51 * edit *

Spenthさんも風邪でありますか・・こちらもそれで苦しんでおります。
寝返り打つのもシンドイ・・頭全体腫れぼったくて割れるような痛み、
咳は止まらないし、ノドもジンジン痛い(口内がすぐ渇く)。
めまいもしてふらふらであります、もうダメかも・・。
鏡に映る自分はほとんど廃人。

カズオ・イシグロ・・うらやましいなぁ。
Spenthさんに握手してもらえるなんて(ちと嫉妬)。

『忘れられた巨人』は正直よくわからない作品でした。
その不穏な世界観には魅了されましたが・・いささか霧が濃すぎました。
以上短く・・ではまた!

nao #6gL8X1vM | URL | 2015/06/16 Tue. 19:24 * edit *

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