Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

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クロニクル4部作 / リチャード・ハウス 

『トルコの逃避行』『砂漠の陰謀』 『ある殺人の記録』 『最後の罠』と、ようやく4部作を読み終わった!
うへ〜〜〜〜
最初に『トルコの逃避行』が文庫ででたのは、4月。その後は一月に一冊のペースで出版されるとのことだったので、ずっとそのまま放置していた。
ところが、アナタ、知らない間にキンドル化されてるじゃないの!!!
なので、2部の『砂漠の陰謀』以降は全部Kindle版で読んだ。こんなことなら最初から全部Kindleで読みたかった。
最初からKindle化してよ…

ちなみに日本語版は文庫4冊だが、原書は1000ページ越えという大作!
放置してなくても、読み終えるのには結構時間はかかったと思う。

と、どうでもいい話はさておき、なんでも本書は2013年のブッカー賞にもlonglistされたらしい。全部読んでみると、納得の通好みの癖のある作品。当初は有力視する声もあったらしいが、結局最終候補には残れなかった。
日本人の、しかもエンタメを中心に読む層には、まず受けないと思う。

どこかのレビューには「ル・カレの再来」とかいう文字が踊っていた記憶もあるが、でも全然違うものだと思った。似たところがないわけでもないが…
少なくとも、「ル・カレのファン」=「この小説が面白い」にはならないのじゃないかと思われるがどうだろうか。ただ、もしかして「ル・カレのファン&マキューアンのファン」≒「面白い」はあり得るのかな?


richard-house.gif

第一部の「トルコの逃避行」はスティーヴン・サトラーことフォードがイラクからトルコへと逃亡するというお話だ。
おもな舞台は戦争後のイラクとトルコ。イラクではアメリカの民間請負業者HOSCOが、焼却炉(バーンビット)の管理や道路建設、物資の補給などを行っていた。HOSCOは他にもイラクの砂漠に街を建設するという”マッシヴ”と名付けられたプロジェクトを進行していた。まさに無から全てを作り上げるという大掛かりなプロジェクトだ。その莫大な予算はアメリカ政府から出ている。

フォードは、HOSCOのヨーロッパ支部のポール・ギーズラーから命じられ、"スティーヴン・サトラー"という全く別の人物になって、イラクの地にやってくる。「サトラー」Sutler の意味は、酒保商人ー軍のために物資を提供する人や会社で、本来はオランダ語で"汚れ仕事をする者”を指す。
ところが、ある日、そのギーズラーから「問題が発生した。君には消えてもらわなければならない」という電話を受け取る。サトラーとしての仕事を受ける際、フォードは二つの約束をさせられていた。ひとつはサトラーとして行動すること。そしてもうひとつは、去れといわれたら去ることだった。
約束された報酬と引き換えに、フォードは逃亡をはじめるが、それはあまりに入り組んだ陰謀だった。サトラーとしての報酬は25万ドルに過ぎなかったが、サトラーに賭けられた嫌疑は"マッシヴ”の全予算5,300万ドルの横領だったのだ。
そんなフォードを追うのは、HOSCOに雇われた保険調査員のパーソンズだった。ところが、HOSCOがこの莫大な金の横領犯の追跡に割いているのは、自分ただ一人だと知ったパーソンズは思わぬ行動に出て…



第二部の「砂漠の陰謀」は、時間軸を遡った第一部の前日譚だ。サトラーをはじめとして、HOSCOの請負人たちが、号学の報酬と引き換えになぜイラクの地にやってきたのか、なぜサトラーが逃亡をしなければならなくなったのかという経緯が描かれている。
ここでの主役はサトラーことフォードから、請負人のリーダー、レム・ガナーセンへと移される。レムたちが働くのはキャンプ・リバティというバーン・ビット(焼却炉)だ。
レムがこの地で働くようになった不幸な経緯や、バーンビットから排出される有害物質は、まさに戦争の裏側。そしてそんな窮地のレムをスカウトしたのも、またしてもポール・ギーズラーなのである。
HOSCOによって砂漠の地にもたらされた物資は、そこで処分されなければならず、バーンビットでは文字通り"なんでも”燃やされる。バーンビットとは聞こえがいいが、ようは砂漠に掘った穴に軍事廃棄物だろうが、人の切断された手足などの医療廃棄物だろうがを、一切合切を放り込みジェット燃料で燃やすのだ。その際でる煙には、カドニウムやダイオキシンなどの有害物質が含まれている。


iraq.jpg

第一部と二部だけ読むと大掛かりなスリラーなのかなと思わせるが、第三部は徹底的にそれを裏切る。
三部は、一部と二部にもチラリと登場する本「ある殺人の記録」、つまりは作中作そのものなのである。第一部で、フォードが逃亡中に知り合ったアメリカ人の青年エリックが大切に読んでいた本であり、二部でレムが妻と最後に見にいった映画の原作でもある。
この「ある殺人の記録」の舞台はイタリアのナポリだ。ある小説を模倣して実際に殺人を犯した兄弟と、その変わり蓑にされた男マレクや時を同じくして行方不明になった人々を題材にし、ある青年によって書かれた本という入れ子構造になっている。


続く四部は現実世界へと戻り、舞台はキプロスへと移り、主人公もまた変わる。ここでの主役は、サトラーでもレムでもなく、リーケという若い女性なのだ。
リーケの姉の夫はドイツ大使館員で、第一部でサトラーを追うパーソンに、こう言ったヘニング・バスティアンだ。「あなた(パーソン)がサトラーは見つけることはない。それは保証します。そしてHOSCOはあなたお役御免にして、それでこの件は終わりです」その言葉を受けて、パーソンは物語を複雑にする突飛な行動にでるのだ。

冒頭、三人のサトラーが発見されたという知らせから物語は始まっている。
一人目はローマで列車に轢かれてバラバラになり、三人目は砂漠で大火傷を負い、キプロスの治療施設へと運ばれてた。
出産間近な姉の付き添いのために、姉夫婦とともにキプロスに滞在することになったリーケは、ノルウェー人のトーマス・ベーレンスという男性に英語の個人レッスンをすることになる。トーマスに惹かれる一方で、どういう意図でトーマスが英語を習いたいのかについていぶかしく思うリーケ。
そして、次第に彼女はサトラーを取り巻く謎に巻き込まれていくのだった…


四部作中、もっとも混沌としているのが第三部の「作中作」である。
スパイ系スリラーを期待していた人は、たぶんここで脱落するのではないだろうか?しかし、再読して一番読み応えがあるのもまた第三部だとも思う。

後に第四部で、エリックの母親が息子が所持していたこの「ある殺人の記録」を読み、「まとまりがなく、不快で、なんの理由も書かれていなければ、謎の解明もされていない」と言っているのだが、これはそのまま「クロニクル4部作」を通しての感想でもある。本当に何も解決しないし、何も明らかにはされていない。
だが反面、エリックの言うように私も「よくわからないとこがあって、読み落とした箇所があるのかもしれない」とも思うのだ。
この感じは、ロベルト・ボラーニョの『2666』を読んだ時を思い出させた。それぞれの繋がり方も、なんだかわからない感がそっくりなのだ(笑)"くさや”のようにはまる人はとことんはまってしまうというまさに"通好みの作品"だと思う。

余談だが、第四部の舞台キプロスについてのリーケの姉やロシア人のソルの持論はなかなか面白い。
タイムリーだが、キプロスは、まるで、もしかしたらそうなっていたかもしれないギリシャでもある。
と言うか、殆どギリシャと同類だけども(笑)
ソル曰く「彼ら(キプロス国民)は、中途半端さを好むんだ。紛争で有名な島のままのほうがいいとさえ思っている。中略ー自分たちの行為が哀れだと気づくこともなく、国家全体がますます貧しくなっていく。問題はヨーロパの腐敗ではなく、キプロスの怠惰だ。」

怠惰!
ピケティさんは同情的だけど、彼らはあの騒動の最中にもビーチでくつろいでたし…
でも、デモとかそういうことには俄然元気。借金棒引きにしてもらっても不満を主張できるのはすごいわ…
ギリシャは何年かしたらまた同じことになりそう。



クロニクル〈1〉トルコの逃避行 (ハヤカワ文庫NV)
クロニクル (2) 砂漠の陰謀 (ハヤカワ文庫NV)


Kindle版 クロニクル1 トルコの逃避行
Kindle版 クロニクル2 砂漠の陰謀






クロニクル 〈3〉 ある殺人の記録 (ハヤカワ文庫NV)
クロニクル 〈4〉 最後の罠 (ハヤカワ文庫NV)


Kindle版 クロニクル3 ある殺人の記録
Kindle版 クロニクル4 最後の罠




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2015/07/16 Thu. 12:26 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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