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読書日記、ときどき食日記

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サイコパス・インサイド 〜ある神経科学者の脳の謎への旅 / ジェームズ・ファロン 

今朝、起きたら、『エヴリシング・オア・ナッシング:知られざる007誕生』をやっていたので、つい観入ってしまった。

007とは、まぎれもないあの人気映画シリーズのこと。原作者イアン・フレミングはどうやってボンドを生み出したのか、映画製作者たちはどんな苦労をしながら、あのシリーズを継続させていったのか等々を、ホームビデオによる秘蔵映像やスタッフのインタビューによって、まとめあげたドキュメンタリー作品である。時に映画のシーンを使った映像は、私の世代にとっては懐かしいの一言だった。
ショーンと制作サイドの不和と降板、プロデューサーの強烈な執着ゆえの長い訴訟、ティモシー・ダルトン起用の失敗とようやく実現したピアース・ブロスナンのボンド等のエピソードが語られている。
ブロスナンのボンドは、タメのあるアクションがかっこよくて私は割と好きだったのだが、大成功を収めたにもかからわず、4作で終わってしまった。それは冷戦終了という時代の流れによる原点回帰のためのものだったという。そして苦労の末に誕生したのが、あのダニエル・クレイグのボンドなのだ。あの作品のほの暗さとストイックなクレイグのボンドは今という時代に即しており、大衆にも受け入れられたのは周知の通り。
私は映画館があまり好きじゃないので、「スペクター」は観てないのだが、観たくなったな…
007_Stage.jpg

ところで、ボンドは、サイコパスであるとしばしば言われる。そもそもサイコパス的気質がなければ、スパイはつとまらないだろう。
しかし、サイコパスなどという診断は実は精神医学の世界には存在しないのだという。その診断基準は今もって論争の渦中にあるらしいが、共感性の欠如というのが最も大きな特徴らしい。


サイコパスについての説明を引用してみると、「サイコパスは人を憎まないこともあるが、愛し愛されるという私たちの多くがしている仕方で、人を愛することもない。サイコパスは人を思い通りに操縦しょうとし、嘘に長け、口がうまく、愛嬌たっぷりで、人の気持ちを引きつける。彼らは人が恐れるような結果を気にしない。(中略)しばしば衝動的で、罪悪や後悔の念に苛まれない。つまり、彼らは向こう見ずで危険な遊びに誘っておきながら、けが人がでても、肩をすくめるだけでおしまいにする」
いうまでもなく、これらの気質には程度があり、スペクトラムのどこに位置するかによって異なるが、言われてみればそのままボンドにも当てはまる。

slide-2 brain
ところで、サイコパスには脳に際立った特徴がある。彼らの脳は決まってある一定部位、情動を司る部位の機能低下がみられるという。
そして、本書の著者ジェームズ・ファロンは58歳の時、自分自身の脳に、そのサイコパス脳と同じ特徴を認めたのだった。その事実を発見したのは、まさしく全米のおぞましい連続殺人者たちの脳を、そうでないものとのブラインド対照させていた最中だった。

ファロンは、自らも認めるように、成功した脳神経学者で、有名大学の医学部の教授であり、三人の子供を持つ良き家庭人であり、多くの友人にも恵まれていた。これまでにどんな犯罪歴もなく、暴力的でもないことから、ファロンは自分がサイコパスだとは考えなかったが、サイコパス脳と自分の脳のパターンが一致していたことは、考えさせられる事実だった。

それに加えて、人間を形作るの8割は遺伝子型であると信じていたファロンは、また別の驚くべき事実を目にすることになる。彼の父方の家系は、かのコーネル大学の創設者に連なるもので、過去長きにわたり5指に余る数の殺人者を出してきた家系だったのだ。そして、調べてみると彼自身、いわゆる「戦士の遺伝子」を持っていたのだ…
この戦士の遺伝子(詳しくは、MAO-Aプロモーターの短形型)を持つ人は、怒りを抑制しにくいため、暴力的傾向が強いといわれている。これもシリアルキラーに多くみられる遺伝子型なのだ。
この遺伝子は、暴力的傾向の強い地域で蓄積されると考えられており、紛争地域などでは、この遺伝子型を持つ人が多いらしい。

余談だが、来週から全豪オープンテニスがはじまる。
現在ナンバーワンのジョコビッチもその遺伝子型を持っている可能性が高いのではないか。あの超攻撃的なスタイルもそうだが、怒りを制御できず、しばしばコートにラケットを叩きつける姿からもなんとなく想像できる。が、何より彼はセルビア出身なのだ。

ただ、ここでいらぬ誤解を招かなないように断っておくと、サイコパス脳で且つこの遺伝子型を持つファロンは、全く暴力的な人間ではないし、成功した科学者だ。
同様に、ジョコビッチもユーモアに富んだ、よき家庭人として知られている。

james_fallon.jpg

自らに関する衝撃の事実を知ったところから、ファロンの探求の旅は始まる。自分は常に多くの友人に囲まれ、楽しくやっていると思っていたが、本当のところはどうだったのだろうか。戯れに同僚が「お前はサイコパスだ!」と言っていたことは、本当に冗談だったのか…。
自らの青年期から現在までの振る舞いを、脳の成長や働きのデータと照合しつつ説明する様は、なぜか恐ろしさを感じさせた。だって、あまりにも、冷静沈着にすぎるのだ!

また、サイコパス脳にみられるような脳の機能低下の場合、たいてい他の疾患、統合失調症、躁鬱、双極性障害を併発しているという。ファロンの場合も自覚症状は全くなかったが、実は双極性障害を患っていた。(彼の場合、長期間にわたっての軽躁状態がみられたという)
彼は、体重の増減が激しかったが、軽躁状態の時は、4時間睡眠しかせず、痛飲、大食による体重の増加があり、研究結果には目覚しい発見がいくつもあった。自分では愉快で楽しいやつだと思っていたが、他人からみれば、ただ騒々しいやつだった。
その上、全く無意識にこれまで家族を傷つけていたことも判明する。だが、彼はそのことについて「気にしない」でいられたのだ。

ファロンはこうした事実を公にし、またそれをテーマにした数多の講演も行っている。訳者曰く、こうしたことができるのも、サイコパス的な特徴らしいが(笑)
確かにファロンにはサイコパシーが多くあるが、反社会性もないし、暴力性もないのだ。過去に犯罪を犯したこともない。
彼は「マイルド・サイコパス」に分類されるといわれている。
サイコパスという事実を公表後、幾人がの友人は去っていったが、未だ彼には多くの友人がいるし、ティーンの時代から寄り添っている妻もそんな父を見捨てない子供たちもいる。

多くの人は、サイコパスを十把一絡に、危険なシリアルキラーだと認識しているが、決してそうでなく、スペクトラムなのだ、程度の問題なのだということを周知させるにも、良い本だと思う。

『サイコパス 秘められた能力』でも描かれているが、サイコパスは必ずしも悪いばかりでなく、その性質はいくらでも良い面に活用できるのだ。現に、かつてのファロンのように、自分がそれと気づかず、各界で活躍している人は多いだろう。
例えば、外科医師にもその割合は高いという。
繊細で高度な技術が求められ、失敗が許されない手術の場合、執刀する医師が恐怖心を抱かず、過度に患者に共感しないことは、そうでない医師が執刀するよりも成功の確率ははるかに高いだろう。冷静に、自らの通常の能力を発揮できるのだから。

シリアルキラーと同じ脳パターンを持つファロン自身に立脚したサイコパスの「三本の脚」理論は、興味深いものだ。「氏より育ち」というが、人間には「氏と育ち」双方がどちらも欠かすことなく大切だということなのだ。



サイコパス・インサイド―ある神経科学者の脳の謎への旅

ジェームス・ファロン (著), 影山任佐 (翻訳)
出版社: 金剛出版 (2015/1/30)







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category: ポピュラーサイエンス

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: サイコパス  脳科学   
2016/01/16 Sat. 11:46 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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