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読書日記、ときどき食日記

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不道徳教育 ~擁護できないものを擁護する / W・ブロック 橘玲訳 

おっ、三島か?と一瞬勘違いしてここに来ちゃった方にはごめんなさい。

本書は経済学の思想のお話である。最近文庫化もされたらしいが、文庫に際しては、タイトルの「不道徳教育」は、「不道徳な経済学」と改題されている。

不道徳な経済学──擁護できないものを擁護する (講談社プラスアルファ文庫)不道徳な経済学──擁護できないものを擁護する (講談社プラスアルファ文庫)
(2011/02/22)
ウォルター・ブロック

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本書で語られるのはリバタリアンの思想である。
リバタリズム?リバタリアン
オバタリアンの親戚?でもハイレグでもありませんから…。

結構古くて、70年代のアメリカのベストセラーらしいが、なんといっても橘玲氏による”超訳”がなされている。
著者の思想はそのままに、現代日本用にカスタマイズされているという。
私は、かなり以前に『マネーロンダリング』 読んだときからの橘玲氏のファンなのだ。最近は小説は書いていないみたいで、残念なんだけども…。

最近の橘さんはリバタリアンなるものを公言しているが、リバタリアンとは何ぞや?
簡単にいえば、”市場原理主義に基づいて自由に生きることはよいことだ”という経済学的思想のことである。
ドーキンスらがダーウィンを信じているがごとく、彼らはアダム・スミスの「見えざる手」の力を信じている。
この哲学の基本は「誰の権利も侵害していない者に対する権利の侵害を正当化しない」ということで、つまりは、リバタリアンの思想とは「人をいきなり殴りつけるような行為のみを批判する」ことだといっていい。
その思想のもとでは、売春婦やポン引き、覚せい剤の売人、女性差別主義者から闇金融、ホリエモン、子供を働かせる資本家に至るまで、一般に不道徳といわれる人々は、一転ヒーローとなるという。
ホリエモンはともかく、売春婦に覚せい剤の売人、女性差別主義者は、どう考えたってヒーローなんかになりえないだろう、と思うでしょ?ところが、どっこい。コメルニクス的なリバタリズム・マジックによれば、悪は善になってしまうのだ。論理的には、最後には「まいったな。あんたが正しいよ」に変えさせられる。
この見事な展開の魔法が読みどころでもある。
かのハイエクが序文で述べているとおり、リバタリアンの思想は劇薬であり、この”劇薬”は非常によく効き、その効果は爽快ですらある。
経済を本当に理解するためには、様々な偏見や幻想から自由でなければならないのだ。

ところで、リバタリアンが理想とするのは、極限まで最小化した政府による国家だ。なぜなら国家こそがリバタリアンのいうところの「悪」の定義にあてはまるのだから。
リバタリアンにいわせれば、徴税は善良な市民に対する国家による暴力的な行為に他ならず、国家は保護とか規制といった形でその国の市場をゆがめている。

例えば、リバタリアンによれば、「アフリカの貧しい人々に救助の手を差し伸べるのは、アフリカをより貧困化させる」という。
飢饉が起こりアフリカの子供たちが飢えに苦しむと、世界中から援助というかたちで膨大な量のトウモロコシがアフリカに送られてくる。だが、この善意のトウモロコシは役人にネコババされて、トウモロコシ市場に横流しされるのだ。元手がタダのネコババ役人は価格が安くても儲かるが、トウモロコシ市場は暴落し破壊される。それは、すなわち人々が経済的に自立する手段を奪うということを意味する。儲からないのであれば、トウモロコシを作ろうという人はいなくなるからだ。自力で市場が形成されなければ、経済は成り立たない。挙げ句、役人は援助物資のピンハネがやめられなくなり、アフリカは乞食に成り下がるというわけである。善意は、かくして不道徳なことに変わってしまう。
これが単なる屁理屈でないことは、何十年にもわたって世界中がアフリカを支援し続けても、アフリカの現状が全く変わっていないことからもわかる。経済的にみるならば、慈善は悪であり、慈善団体に寄付しない冷血漢はヒーローなのだ。

だが、もしあなたがアフリカを旅していて、今にも死にそうなほど痩せ衰えた飢えた子供が道端に座り込んでいたとしたら、バッグにあるチョコバーをその子に差し出さずにはいられないではないか?
日本にいて、アフリカのガリガリに痩せ衰えた今にも死にそうな子供の写真をみせられれば、それと同じ効果が生じるだろう。多くの人善意からなんらかの援助がしたいと申し出るに違いないと思う。
リバタリアンの思想は経済的に中長期的に考えれば全く正しいが、短期的にみるならば、その子たちは死んでしまうだろう。
経済の外にあるこの種の問題を超えられない限り、リバタリズムは前に進めないのではないかとも思ってしまう。
著者は異なる見地でダーウィンのnatural select 適者生存を説明に用いているが、残酷な面で通じるものあるのは興味深い。

不道徳教育不道徳教育
(2006/02/03)
ブロック.W

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category: 宗教・思想

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: リバタリアン  橘玲 
2011/03/07 Mon. 08:49 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: タイトルなし

zakさん、こんにちは。
> リバタリアン!? バタリアンっていう古いホラー映画思い出しました。

あはは!一字違いがもういっこあったのか。

> サンデル先生の話のように哲学を考えることに終わりはありませんが、
> 現実は進んでいきますもんね。短期的にはその子たちは死んでしまう。
> 考えるのって、難しいですね。

そうなんですよね。
そしてフリーズしてしまう...orz

でも、知っているということは大切ですよね。
それから、物事を様々な角度から観るということも、本質を理解する上で大切だと思います。

Spenth@ #- | URL | 2011/03/08 Tue. 08:40 * edit *

こんにちは!
リバタリアン!? バタリアンっていう古いホラー映画思い出しました。
北朝鮮でも、援助物資で肥えていくのは軍の上層部ですもんね。
臓器移植の援助基金でも複雑な問題がありますし。
サンデル先生の話のように哲学を考えることに終わりはありませんが、
現実は進んでいきますもんね。>短期的にはその子たちは死んでしまう。
考えるのって、難しいですね。

zak #- | URL | 2011/03/07 Mon. 17:49 * edit *

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