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読書日記、ときどき食日記

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悪徳小説家 / ザーシャ・アランゴ 

唐突だけど、性善説って信じますか?
私は「性善説は反論しがたい偏見である」という本書の主人公に賛成かな。

特におばさんとか(私も含めて)誰かの悪口を言ってる時には生き生きとしてるし、マスコミなんかが誰かどうでもいい大義名分のもと過剰なまでにやっつけたりするのを人は好むものでしょ(笑)
時に、真に善人という人間もいなくもないけれど、多分そんな人はごくごく少数。たまたま出会えたなら、それは僥倖としか言いようがない。私も友人に一人だけいるけれど、会うたび清めてもらっているような気分になる(笑)
大抵の人は、いい人でもある一方、多かれ少かれ腹黒い面も持ち合わせているものだと思うのだ。

sascha-arango.jpg 

さて、本書「悪徳小説家」の主人公、ヘンリーも紛れもなくそういう人間の一人。というか、普通よりかなり悪徳面に針が振れている。

ベストセラー作家として知られているヘンリーは、実は自分では一語たりとも書いていない。作品の全ては妻のマルタの手によるものなのだ。その事実を知っているのはヘンリーとマルタだけ。
ヘンリーはマルタを愛しているが、魅力的編集者のベティと愛人関係にある。ところが、ベティがヘンリーの子を身ごもってしまう。それも新作長編があと少しで仕上がるという時に。
そもそもヘンリーにはマルタと別れる気はさらさらなかった。それにベティは怜悧な現実主義者であり、よい母親にはなれないだろう。ベティとの関係は、性欲のみに基づくものだ。
だがベティの手前、「マルタに全てを話す」と約束するヘンリーだったが、やはり気が変わる。マルタは自分には欠かせない存在で、何より彼女を愛しているから。
ベティとの別れを決意し、ヘンリーは車で待ち合わせにしている海辺の崖に車で向かう。ベティは自分のスバルで先に来ており、崖すれすれのところに駐車していた。ヘンリーのマセラッティとベティのスバルのバンパー同士が軽くぶつかった途端、ヘンリーはアクセルを踏んでしまう。ベティのスバルは崖の淵を超え海へと転落してしまうのだった。
しかし、帰宅したヘンリーを待っていたのは、ベティだったのだ…

Hovawart.jpg 
これね、何気なくDLして読み始めたのだけど、正直エルロイより面白かった!
しかも文庫なのよ!!!

なんでも、この作品はCWA(英国推理作家協会)のインターナショナル・ダガーにノミネートされた作品だそうで(ということは、受賞には至らなかったのだろうがそれに匹敵する出来!)、ドイツ推理作家協会新人賞を受賞しているという。
少し前まで北欧&ドイツミステリブームだったし、ドイツものはもうね、いい加減にねぇ、、、と思っていたのだが、これは大ヒット。ただし、キッチリすっきり解決を望む人向けではない。

本書は世界25カ国で翻訳され、一躍著者をベストセラー作家に押し上げたらしいのだが、何を隠そう作中でマルタが書いてヘンリーの名で出版された処女作もそういう設定。そして、マルタの新しい長編は、ヘンリーに似た人物を主人公に据えていたりするという凝り様である。
タイトルの「悪徳小説家」というのは、ヘンリーではなく著者自身のことなのかも。
マルタの最後のメッセージは、「この話がどう終わるのか、わかる?」である。それはヘンリーに向けてと同時に、読者に向けて放たれた言葉でもある。

上記のあらすじ以上に、ヘンリーの気分や行動はコロコロと変わり、善悪の境界も真実と嘘の境界すらも怪しくなっていく。人間の脳は自分に不都合なことを都合よく改ざんする性質を持つというが、ヘンリーのそれは普通よりも格段に発達していそうな感じ(笑)もっと言ってしまえば、彼は嘘つきで、行動の予測のつかないサイコパスなのだ。
しかし、不思議とこのヘンリーというと男は憎めない。ポンチョという名の犬を可愛がり、友人にも親切で、自分を暴こうとつけ回していた男の命を救ったりもする。読んでいくと次第にヘンリーに魅せられ、共感さえ覚えていくのだ。
多くの書評家は、パトリシア・ハイスミスの「太陽がいっぱい」のリプリーを例に挙げているというが、確かに同種の魅力がある。

反面、全く理解できなかったのがマルタという女性。愛人のベティも、若いベティに嫉妬する出版社社長の中年秘書のこともよくわかる。けれど、このマルタについては全然わからなかった。
ヘンリーに大金が入ってくるようになっても、購買欲も消費欲もなく、貧しかった頃と変わらず毎日自転車で泳ぎに出かけ、夜は淡々と原稿を書く。夫に女性がいるのを察知してもそれを容認し、それを受け入れる。
ただし、それはヘンリーから見たマルタの姿に過ぎない。どこまでが本当のマルタなのかもわからないのだ。それを言えば、どこまでが本当のヘンリーなのかもわからないのだ。

ヘンリーを付け回してしていた男ファッシュはこう言う。「誰かをよく知るなんてことが、できるもんでしょうかね?」
結局、そういうものなのかもしれないです。


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category: ミステリ/エンタメ(海外)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  ドイツ 
2016/08/04 Thu. 15:25 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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