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読書日記、ときどき食日記

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人工知能の核心 / 羽生 善治 &NHKスペシャル取材班  

7月だというのにもう30度超えの暑さ。いや暑さよりも湿度が辛い。
昔はこれほど暑さが嫌いではなかったのに、最近は耐えられない。トランプ大統領がなんと言おうと、日本が毎年毎年暑くなっているのは事実だ。東京オリンピックとか死者がでたらどうするのか。


アツいといえば、藤井四段に"ひふみん"で沸騰している棋界。その最高位の知性、羽生善治さんによる人工知能本が本書である。
これを読むきっかけになったのは、先ごろ放送された「NHKスペシャル 人工知能 天使か悪魔か 2017」という番組を見たからだ。
本書は、それより1年前に放送された「NHKスペシャル 天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」という番組の取材記である。

ponanza.jpg 

私が見た2017年6月放送の番組では、冒頭「電王戦」を取り上げていた。
「電王戦」というのは、プロ棋士と人工知能"ポンナンザ"との対局で、この春に行われたのは現時点での将棋界の最高位、佐藤天彦名人との2番勝負だ。結果はポナンザの圧勝。

そんなポナンザの初手は3八金。王の守りは薄くなり飛車の動きも弱め伸展性のないこの手は、人間は絶対に指さないと羽生は言う。しかし、3八金を足がかりにそこから10手でポナンザは「中住まい」と呼ばれる強固な守りを築いた。
歴戦の棋士でも見抜くことが困難な独創的な手だった。長らくコンピューターには難しいと言われ続けていた「独創性」をポナンザは獲得していたのだ。


IBMのスーパーコンピューター、「ディープ・ブルー」がチェスの世界チャンピオンを打ち負かす1年前の1996年、『将棋年鑑』で「コンピューターがプロ棋士を打ち負かす日はくるか?」というアンケートが行われた。
米長邦雄も、ひふみんこと加藤一二三も、村山聖も「来ない」と答えたが、ほぼ正確にその到来を予測していたのが羽生善治だという。

羽生の予想通り、今や人工知能は隔世の間さえ感じるほどの進化を遂げている。

このような発達の背景には、大きく「ビッグデータ」「ハードウェアの向上」「ディープ・ラーニング」の三つが上げられる。前者二つは言わずもがなだ。

ポナンザはポナンザ同士の自己対局によって過去700万局の経験を積んでいる。人間がやろうとすれば、2000年はゆうにかかってしまう。

最後の「ディープ・ラーニング」は、人間の脳が学習する仕組みを真似した手法だ。そしてその中には、かねがね羽生が「将棋を学ぶときに重要なのは、余計な考えを捨てていくこと」というように、無駄な情報を扱うことを減らす引き算のテクニックがあるという。

人工知能の問題は、将棋や囲碁やチェスだけに限ったことではない。
すでに金融取引の8割は人工知能が行っているし、タクシー会社でも実用化が進んでいる。
「電王戦」で起きた事象は今後社会で人工知能が応用されていくとき想定されることを先取りするものではないかと羽生はいう。

2045年には、コンピューターが全人類の知性の総和を超えるシンギュラリティに到達すると言われているが、個人的にはそれはもっと前倒しでやってくるかもしれないと思う。

社会が人工知能を許容していくなかで、問題となるのは、人間が持つ感覚と、人工知能が折り合わない部分があることだろう。
少し前に読んだ「人工知能 人類最悪にして最後の発明」のなかで著者が恐れていたのは、人工知能には「良心」がない、ということだったが、羽生はこれを「美意識」と呼ぶ。そして、この美意識もしくは良心がない理由として、人工知能には「恐怖心がない」ことが関係しているのではないかと推測する。

ただし、羽生は「人工知能が恐怖心を覚えるようになったときが、本当の恐怖かもしれません」と冗談めかして言ってもいる。
太古、地球の主人公は大型恐竜たちだった。そこから一転環境が激変し主役は人間がとって変わった。シンギュラリティが起こり人工知能が「恐怖の感情」さえ獲得したとき、その座には人工知能がとってかわるのではないか…そう考えるのはSF的に過ぎるだろうか。

もう一つの問題は、人工知能の思考過程はブラックボックスであることだ。超高速の思考過程はもはや人間には理解できない。膨大な情報をどう処理し、なぜその結論に至ったのかは人間にはわからない。
社会には、結論だけでなくその過程も含め重要とみなす事柄も少なくない。人工知能の判断を「絶対」としないことも大切だと指摘している。

将棋に話を戻すなら、今の若手棋士は「将棋ソフト」を駆使する人も多く、それによって強くなっているのは確かだ。しかし、逆に人工知能を利用した学習はいわば「学習の高速道路」で、そのなかで膨大な情報を得ることに追われ自分の頭で解決する時間がなくなっていることも羽生は危惧している。
なんだか日々、膨大な情報に触れ、それでいて何も残っていない自分のことを指摘されているような(笑)


余談だが、先ごろ引退した将棋界のレジェンドひふみんこと、加藤一二三九段が得意としたのは「矢倉」という戦法だ。
かつては「矢倉を制する者が棋界を制する」とまでいわれた戦法だったが、実はある将棋ソフトが発見した新手が「矢倉」ではどうしても打ち破れないのだという。それによってほとんどの棋士は「矢倉」を避けるようになってしまったのだとか。加藤九段は「加藤流」を貫き公式戦引退となってしまった。
それを愚かだという人もいるかもしれないが、私はあっぱれだと思った。
ETV特集「加藤一二三という男、ありけり」もいい番組だった。


 
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category: ノンフィクション・新書

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2017/07/05 Wed. 15:45 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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